Inagaquilala

ザ・ファイブ・ブラッズのInagaquilalaのレビュー・感想・評価

ザ・ファイブ・ブラッズ(2020年製作の映画)
4.2
あらためて、ネットフリックスの持つ配信という機動性が遺憾なく発揮された作品だ。スパイク・リー監督のネットフリックスと組んだ新作は、日本でも6月12日に配信公開されたが、すでに「Black Lives Matter」という言葉も劇中に盛り込まれており、内容も、たぶんこれは結果としてタイミングが合ったのだとは思うが、ベトナム戦争におけるアフリカ系アメリカ人兵の煩悶を底流に置きながら、アメリカという国そのもの、ひいては現政権への辛辣なメッセージまで含まれたものとなっている。あらためてスパイク・リー監督の時代に対する鋭敏な感性と強固な思考もひしひしと伝わってくる傑作だ。

物語は、ベトナム帰還兵である4人が、ひさしぶりにホーチミンシティで再会し、グループのリーダーであった隊長の遺骨収集に出かけるところから始まる。その本編の前には、アメリカでのアフリカ系アメリカ人への差別の歴史なども流され、この作品がある種のメッセージ性を持ったものだと、高らかに宣言しているようにも思える。また、物語にドライブを駆けているのが、4人には遺骨収集の他にも、戦争時に埋めたCIAの金塊を探し出すためにベトナムに戻ってきたという目論見もあるということだ。ベトナム戦争の終結と彼らの年齢を考えると、少し齟齬するところもあるのだが、そこにはやはり現政権へのメッセージを盛り込みたいという意図もあったのかとも思う。ジャン・レノ扮する赤いキャップを被り、白いスーツに身を包んだ黒幕の登場シーンでは、やはりあの人物に姿が重なった。

強いメッセージが含まれた作品だが、ストーリーもなかなか練れており、ニュースフィルムや登場人物たちが撮るビデオ映像なども効果的に配されて、かなりクオリティの高い作品となっている。あらためて監督としてのスパイク・リーのセンスも否応なく発揮されている。後半に、主人公であるポールのモノローグや息子に宛てた手紙などのシーンで、スパイク・リーは語るべきことを明快に表現している。このあたり実にメリハリが効いている。とにかく、全米がBlack Lives Matterムーブメントで揺れているこの時期に、この素晴らしい作品をリリースしたスパイク・リー監督とネットフリックスには脱帽する。
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