ミシンそば

アナザーラウンドのミシンそばのレビュー・感想・評価

アナザーラウンド(2020年製作の映画)
4.0
オンライン試写会にて鑑賞。
21世紀に打ち立てられた「失われた週末」、「酒とバラの日々」と並ぶ“アル中映画”の新しい形とでも言うべき傑作で、単なるアル中映画だけに終わらない、甘くないお話でもある。

劇中、ハッキリ言って「当たり前」のことしか起きていないのだ。
酒を呑んだら気分がよくなって気が大きくなる、当たり前。
冷静さを失ってもっと酒を求める、当たり前。
周囲に迷惑をかけて軋轢をもたらし、全てを失う、当たり前。
自分は下戸の嫌酒家だから、こんなことを言えるのだが、「当たり前」を理解することって、飲酒してるかしてないかを問わず、大人になるほどできなくなるんだろうなあきっと。

マッツ・ミケルセンはやっぱり演技の骨子が凄くしっかりしている役者だな。
序盤の明らかに冴えないダメ中年、呑んで授業に臨んだ際のカリスマ性の発露、アルコール入れすぎ時の暴走と、抜けてもとに戻った時の落差、その全ての「当たり前」に、ひどく説得力があった。
ラストの彼の演技は、それだけでも一見の価値あり。

今の時代だからこそ、大人は観るべき映画だったのかもしれない。
「当たり前」からは誰も逃れられないのだから。
終わり方は一見すればただただハッピーだが、ある意味あそこまで振り切ると、「呪縛の恐ろしさ」に震えずにはいられない。
そして、それをすぐには気づけないところがまた、恐ろしい。