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アナザーラウンドのt0moriのレビュー・感想・評価

アナザーラウンド(2020年製作の映画)
3.8
「人生に乾杯を」的なコピーの映画ではまったくなく、どちらかと言うと「酒は百薬の長、けれど過ぎたるは及ばざるが如し」みたいなね。正直、デンマーク人にはもっと本質的な実感があるんでしょうけど、日本人が照らし合わせるとこんな感じかな、と。決して飲酒礼賛の映画ではないけど、ちょっとはハメを外してみようじゃない的な……。かと言って、この映画のようにするのは甚だ問題がある感じ。特に日本人は。手放しには評価出来ない作品でもあり、その辺りがこの作品が投げかけた問いなんだろうとは思う。

総じて、ジョン・カサヴェテス『ハズバンド』、ルトガー・ハウアー『聖なる酔っ払いの伝説』、少しだけコーエン兄弟の『ビッグ・リボウスキ』を思い起こさせる作品だった。

一部で批判の種になってるらしい妻の浮気問題は、バランスというより心が離れた伴侶の取る行動として、至極当然の振る舞いで、その描写が何か主人公マーティンの罪を和らげる意図、とまでは感じなかった。寧ろ主人公の手遅れ感を補強する役割と受け止めた。

追記:一晩経って、ふと思った。この映画、アルコールによってもたらされる悲喜交々が描かれるのだが、逆にアルコールを抜きに解釈した方が、制作者の意図が伝わるのかな、と。教師が心を開き、意欲的に愛を持って接すれば、生徒にも伝わるし、意欲も伝染し、生き生きと取り組めるようになる。パートナーに対しても同じ。一度、完全に壊れ、手遅れだと思った物でも、プライドを捨て素直になって愛を伝えたからこそ、取り戻すことが出来た。人生の選択権は、自分が握ることが出来るという事を描きたかったのか。

ずっと前に事前情報が入っていたのに、今日までずっと忘れていたのだが、この作品のインスピレーションを与えたヴィンターベア監督の娘さんが、本来、出演予定であったのに、クランクインの直前に自動車事故で亡くなっており、その事が作品に与えた影響が大きいようだ。その事実を悲劇的な面からだけでなく、より人生を肯定するような物語へと転換して作品に落とし込んだ事自体に、最も意義かあったのだと思う。
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