サンヨンイチ

アナザーラウンドのサンヨンイチのレビュー・感想・評価

アナザーラウンド(2020年製作の映画)
3.8
空虚な半生を何となく悔やみつつも
惰性で仕事をするしかないマッツ・ミケルセン。
彩りも面白味もない脱け殻のような主人公像がよく似合う。
教師仲間から聞いた、ある有識者の言葉が虚しい人生にひたと突き刺さる。
“人間はアルコール血中濃度が5‰少ない状態で生まれてきている”
そんな虚言を試すほどに実は追い詰められていた主人公は、
遂に学校のトイレで2口、3口と飲酒する。
少し気が大きくなったような…
されど効果は絶大で、教師としての信頼を取り戻し始める。
こうして、ダメンズ教師4人組は
飲酒が人生に与える効能について自らの実験を行うのだが…。


飲酒そのものに対する肯定感は
文化の違いがある為
価値の齟齬は致し方ないが、
「人生」というテーマに当てはめた
逃げ道としての「飲酒」を
肯定と否定とをしながら
それでも前を向いて歩み続けることを
讃歌しているように思える。
衝撃的に艶っぽいダンスと
それに続くラストカットは、
今作は通過点にすぎないことを予感させる。
まだまだ人生の途中、
もう一杯いこう、という
肩の荷を下ろしてくれるような
暖かみのあるショットでエンドロールを迎えさせてくれる。

人生、いつ死ぬか分からないし
浮き沈みもあって、
どうやって生きていけば
沈まずに歩んでいけるかという手立てもない。
良いことも悪いことも
ほとんどは制御できないけれど
苦難と逃避とうまく付き合っていくこと、
それこそが人生の旨みであると思える。

監督自身の最愛の娘を亡くすという悲劇に見舞われながら、
わずか1週間足らずで本作の監督にカムバックし、
この出来事を人生というテーマに昇華していく辺り、
ストーリーの単純な面白さ、明快さ、キャッチーさも相まって
アカデミー賞は当然というべきか。