エジャ丼

スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバースのエジャ丼のレビュー・感想・評価

5.0
「運命なんてブッつぶせ。」

スパイダーマンとしての毎日を送っていたマイルス・モラレスは、別次元に帰ったはずのグウェン・ステイシーと再会する。彼女を追って様々なユニバースを移動していくマイルスは、ミゲル・オハラ=“スパイダーマン2099”の管轄する「スパイダーソサエティ」で、他のユニバースのスパイダーマンたちの存在を知る。

ありがたいことに試写会で鑑賞。
鑑賞時点で、間違いなく2023年ベスト映画に君臨する傑作だと確信した。

“最も優れた続編“として『帝国の逆襲』『ゴッドファーザー part2』『ダークナイト』『ターミネーター2』などがよく挙がるが、それらに追随する最高の続編だと思う。

※ネタバレ感想※

前作はマイルスの“スパイダーマン”としての覚醒を描いた、今作はその“スパイダーマン”としての苦難を、マルチバースの設定を活かし、「それらは全て“決まっている”“避けられない”出来事なのだ」とかなりメタ的に表現。悪と闘いながら、時には大人、時には社会の不条理や矛盾、厳しさに“スパイダーマン”というアイデンティティを保ちながら直面していかなければならない、という蜘蛛男の運命、使命。すでに8作も実写映画が作られ擦りに擦られた設定は、「スパイダーマンって、こういうヒーローだよね」と、その名前だけでも連想することは難くない。その、言うなら人々の“スパイダーマン慣れ”に対し、マルチバースの設定を巧みに盛り込むことで新しい角度での“試練の与え方”に成功している。

マルチバースの設定ならではの伏線回収も秀逸だし、前作から顕著だった全く新しいアニメとしての映像表現は、今作で大きく展開されたマルチバースの存在によってさらに進化。アーティスティックなグウェンの次元、ツギハギだがパンク調でどこか痺れるボービー・ブラウンの次元、すぐそこに死が待っていそうな、暗くておっかない絶望感を感じる別のマイルスの次元。設定を活かせば活かすほど、物語の画的な面白さが増していく。

総じて、マルチバースという設定が、この物語の主人公がマイルスでなければならない理由を形作っていくし、マイルスだからこそできた物語であることと感じる。スパイダーマンという共通項を軸に創られたキャラクターは前作から何人か登場していたが、彼らの生きている世界や各々の物語までの掘り下げが今回されていることで、マイルス以外のキャラクターにも愛着が湧いてくる。「スパイダーマンがいっぱい出てくる」という条件が、作品の可能性を広げに広げている。

映画としての構成もとても良かった。バンドを抜け独りで生きてきたグウェンが、最後には自分でバンドを新しく結成する、この物語がグウェンの口によって語られていたことが明らかになる演出は、第二の主人公としての存在感を示すとともに、“救われる側”になったマイルスの状況を表す上で非常に納得がいく、美しいものだった。また、もともと「スパイダーバース2前編」の位置付けであったこともあった今作の結末は、物語の決着を完全に次作に持ち越す形であった。自身の起こり得た最悪の“可能性”と対峙し、スパイダーマン人生最大のピンチを迎えるマイルス。その一方、親友を救い出すため、かつての仲間を集め、「ソリが合わないなら、自分好みのを作ってしまおう」と“スパイダー・バンド”を結成するグウェン。マルチバースを越えて起こる、“最悪”と“希望”のコントラストが非常に明快であり、それとともに、冒頭では自己中心的だったグウェンの“演奏”は、彼女の語りに合わせて段々と心が躍るようなビートを刻み始める。それはまさに反撃開始のテーマのようで、全ての決着がつく『ビヨンド』への橋渡しとして最高の演出で、興奮しっぱなしだった。最高。

言葉が上手くまとまらなかったが、何度も言うけど最高で最強の続編の誕生に立ち会うことができて良かった、ということを残しておきたかった。3作目、非常に非常に楽しみ!