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パスト ライブス/再会のエジャ丼のレビュー・感想・評価

パスト ライブス/再会(2023年製作の映画)
4.6
「君にずっと会いたかった──」

12歳の時、ナヨンとヘソンはお互いに恋をしていた。しかしナヨンは親の仕事の都合でカナダのトロントへ引っ越し、思いを打ち明けないまま2人は離れ離れになる。
24歳の時、偶然インターネット上で再会。久しぶりに顔を合わせた2人は幼き頃の恋に思いを馳せながら会話を交わすも、直接会う機会は生まれなかった。
36歳の時、ヘソンはナヨンの元を訪れるためニューヨークへと降り立つ。

現時点、2024年に鑑賞した映画の中でぶっちぎりの1位。アカデミー賞無冠なのが悔やまれる。最高に切ない物語を、繊細に描く手腕が見事。『ラ・ラ・ランド』が好きであれば、どハマりすること間違いなし。

「あなたのことが好き」そのたった一言が言えなかった男女が、それぞれの人生を歩んだ後、偶然にも再会し、かつての恋の尊さとまだ消えずに残る心の奥の灯火に蓋をしようとする物語。“イニョン/縁”は作品の核を形成する言葉として何度も登場する。もう戻れない過去と、自分が生きる現在とのギャップは、恋愛というジャンルに限らず“自分自身の選択”として扱われることが多い中、今作の2人の故郷に由来する考え方─巡り合わせの思想─が提示するのは、過去・現在・未来、そして前世・現世・来世、輪廻転生を経てもなお保ち続けられる運命の一本の糸の不変性。能動的な選択によりある今の人生であれば、後戻りは効かない。過去に縋ったり、取り戻そうとする暇もなく、未来へ向けた現在の選択を常に迫られ続ける。意図して掴み取っていくもの。だが全てがイニョン/縁によって結びつけられた運命であれば、過去も未来も一本の一筋の道として、“世”を超えて果てしなく続いていく。どうすることもできない繋がりとしてあるのが、運命である。

この映画が美しいわけは、そこにある。全てが避けられない運命によって生じた人と人との出会いだからこそ、まさに運命的な輝きを感じる。一方で別れもまた定められた縁である。もう戻ることのできない、もう触れることのできない出会いに儚さを見出し、その過去に思いを馳せる。でもその出会いは縁によって紡がれた、自分の人生を形作るピースの一つであることはこれからも変わることはない。そしてそれは、来世でも違う形で続いているかも。そうした、人智を超えた人との関わりは一過性と永続性を併せ持つ。そのある意味の矛盾は、ナヨンとヘソン、そしてアーサーの3人の表情や仕草、会話によってとても人間味を持って描かれている。

矛盾と言えば、ラストシーンは圧巻。永遠に続いてしまうような、でもあっという間に過ぎてしまった2人の見つめ合いは、息が詰まるほど切なく、気まずく、でも美しい。12歳のナヨンの恋に別れを告げようとする瞬間、ノラの頭にはヘソンとの全ての思い出が駆け巡ったはず。そして自分の中でのその恋の存在を確かなものへと結論づける。それでも自らの縁を受け入れ、胸の奥にしまい込む。ただ立ち止まり、お互いを見つめるだけのシーンのはずなのに、これほどたくさんの感情が入り混じったのは初めて。2人の緊張感が、自分の鼓動が速まることで追体験していたかのよう。

「もし これも前世で─僕たちの来世では 今とは別の縁があるのなら─その時 会おう」

こんなに儚く、切なく、最高に美しい台詞はありますか。