イルーナ

ウルフウォーカーのイルーナのネタバレレビュー・内容・結末

ウルフウォーカー(2020年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

『ソング・オブ・ザ・シー』であまりの美しさに衝撃を受けてから早4年。
世界中がコロナ禍にあえぐ中、満を持して公開されたカートゥーン・サルーンの最新作。
絵本の世界に入り込んだようなアート性はさらに進歩し、街と森の対比、時にラフながらも緻密な線、嗅覚の描写の視覚化、生命力や躍動感あふれる絵と動き。眼福です。
特に劇中で使われた『Running with the Wolves』のエピソードはあまりに出来すぎていて、運命的なものを感じます。

舞台はアイルランドの街キルケニー。そして時代はイングランドのアイルランド侵略の時代。
ロビンは父と共にイングランドから越してきたけれど、ここでは彼女はマイノリティであり、地元の悪ガキたちから「イギリス女」と嘲笑される。
さらに街の人は狼は殺されて当然の存在として見ている。しょっぱなから生々しく描かれる、差別の連鎖。
ロビンも狼ハンターの父を持つゆえに狼退治に憧れていたけれど、人間と狼両方の姿を持つウルフウォーカーの少女、メーヴと出会ったことにより、価値観が揺らいでいく。
さらに彼女もウルフウォーカー化したことで、いよいよ「狼=殺されるべき悪」の価値観から脱却。
しかしそれは、人間社会と自然の板挟みとなることも意味していた……
後半に入るとひたすらロビンが苦しんでいて本当にいたたまれない。
他にも、護国卿は確かに恐ろしい敵ではあったけど、最後まで筋を通したし、その行動原理はあくまでも「民衆のため」。
それが父からロビン、ロビンからメーヴへと連鎖しているんですよ。誰かのためを思っての行動が、かえって抑圧につながるという皮肉。
……と、舞台背景は非常にシリアスそのものですが、それ故に、解放されることの尊さが引き立つ。

ビックリしたのが終盤。
ずーっと「言いつけを守るんだ」「お前のためを思って言ってるんだ」ばかり言ってて、それまで全くいいところなしだった父親が…
「ん?まさか……」→「おい余計な事すんな」→「親父マジでああなるんかい!」という展開。
それまでの立場を考えたら中々皮肉とも言えますが、彼もまた、組織の歯車という抑圧から解放されたということなのでしょう。
観る前は「ロビンはお父さんの元を去ってしまうんだろうなぁ……」と思っていたから、この展開はほっとした……

ちなみにパンフにロビンの名前の由来は「イギリスの妖精ロビン・グッドフェロー」とあったけど、劇中でメーヴが言うように、イギリスの国鳥の名前でもある。そして弓使いと言えばロビン・フッドもいる。
つまり徹底してイギリスの象徴なんですね。侵略する立場の国出身の子が、やがてアイルランドや自然との懸け橋になるという理想。
一方のメーヴはケルト神話に登場する女王の名前。英雄クー・フーリンの宿敵として有名ですね。
多くのメディアでは悪役扱いされることが多いですが、パンフでは「英雄的な人物として知られている」とあるし、アイルランドの紙幣にも描かれている。
狼と同じように、時代が進むにつれて悪役扱いされるようになっていったのでしょうか……?
イルーナ

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