アイダから留めなく出てくる、行動や表情、そのひとつひとつに対して、なにを思うことができるだろうか。飲み込めていないことがたくさんある。
そのためにはまず、知ることが大切だろう。紛争が3年半にわたり続いていること、劣悪な環境のホールの中ですし詰め状態にされていること、また彼女自身が通訳士という特異な立場であること背景・風景を歴史や記録の中から、多面的に、考察をすることはできる。だがそれだけでは足りないだろう。アイダや女性たちのうちから溢れるものがある。
人と人のつながり、自分の身体から生まれてきた子供への願い、いのちを強く守りたいと思うこと。それ以外にも今まだことばにできないものがある。きっとそれらはまだ私がわからず、感じることもできていないことなのだろう。今まだわからず引き裂かれたような気持ちにだけど、思い、わかるようになりたい。
こう描くしかなかったとも思えるほど、極端なまでに静と動が対比的に描かれているように感じた。だが、それでも描くことのできない、足りない何かがあるように見える。身もすくむような視点から、人間の存在論が問い返されているように思われるのだ。