けまろう

親愛なる同志たちへのけまろうのネタバレレビュー・内容・結末

親愛なる同志たちへ(2020年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

『親愛なる同志たちへ』鑑賞。フルシチョフ政権下でのソ連で起きたノボチェルカッスク事件を舞台に、イデオロギーと個人の感情の間を揺れ動く母親リューダの姿を描く作品。元共産党員で昔には戻りたくないと嘆く祖父、スターリニズムを信奉するエリート共産党員の母、そして現代的な思想を持ちストライキは民衆の権利と主張し行動に移す娘スヴェッカ。三世代の考え方がわかりやすく描かれていて理解しやすい作品。ちょいちょい出てくる古い聖母マリアの絵画が良いアクセントととなり要所のシーンに意味を持たせる。
固定ショットの多用や当時の緻密な再現の執心ぶりに溝口みを感じる。モノクロ映像やアスペクト比(1:1.33)まで拘り抜いている辺り、作品そのものとしてソ連時代への回帰を観客に促すようだ。
スターリニズムでは限界を迎えていた1960年代、物価は高騰、賃金は下落の経済困窮の中、ウクライナ近くの町ボチェルカッスクで起きたストライキ。スターリニズムを信奉しこれまで仕事に励んできたリューダはストライキを労働者の権利と肯定する娘と喧嘩別れしてしまう。そのまま戻らなくなった娘。自分の共産党員としての信条と母親としての心情が対立し、それまで冷徹な共産党員に見えたリューダが徐々に人間味を帯びていく。特に庁舎の女子トイレで嗚咽を漏らす姿からだろう、母リューダとしてイデオロギーに背く行動を起こし始めるのだ。KGB所属のヴィクトルの協力もあり、封鎖都市から脱し娘の情報を求めて田舎町へ。そこで娘の遺体を埋葬したという男性同志に会う。
遺体の特徴から娘だと確信するリューダ。帰路の最中、湖畔で生い立ちをヴィクトルに語る。看護師として活躍した戦前、ソヴィエト兵と出会い身籠るも男は妻帯者で間も無く戦死。共産党の教えを信じ女で一つでスヴェッカを育ててきた。しかし、今、共産党の政策が振るわず娘を失ってしまった彼女は、何を縁に生きたらいいか分からないと嘆く。何もかも壊れて無くなり再生して欲しいと願う彼女。ここに革命の灯火が心に宿るようにも感じる。
失意のどん底で家に帰ると、実は生き延びていたスヴェッカと屋根上で再会。不安に怯える娘の肩を抱き、眼下にノボチェルカッスクの街並みを眺め「きっといい未来になる」と娘と自分にも説得するように呟くリューダ。絶望の先に希望を見出すような視線と力強い親子の抱き合う姿。あまりにも美しいエンディングシーン。
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