Jun潤

ベイビー・ブローカーのJun潤のレビュー・感想・評価

ベイビー・ブローカー(2022年製作の映画)
3.5
2022.07.05

是枝裕和監督作品。
是枝監督作品は好きなものもあればあまりハマらないものもあり、僕の中のポジションがイマイチ定まっていない現状。
その上韓国映画もあまり見ておらず…。
しかし2019年から海外に進出した是枝監督が、『パラサイト』主演俳優ソン・ガンホとタッグを組んだという注目度の高い作品とあれば観ないわけにはいかない。

何らかの事情で赤ん坊を育てられない親が、自分の子を置いていくポスト「ベイビー・ボックス」。
それを“悪用”して、もしくは“善意”から動いて、子供を回収して子を望めない、養子縁組の承認を待てない養父母と高値で“売買”する「ベイビー・ブローカー」。
そんな仕事をしているサンヒョンとドンスは、いつもと同じようにポストから赤ん坊を回収する。
いつか必ず迎えに行くという手紙も添えられていたが、その約束を叶える親がほとんどいないことを2人は知っていた。
ウソンと手紙に書かれていたその子供を売りつけに行こうとする2人の前に、子供の親を名乗る女性・ソナが現れる。
サンヒョンとドンスはソナも連れていくことにするが、サンヒョンは借金が嵩みヤクザからの取り立てを受けており、半ば逃げるようにして旅に出る。
一方、人身売買の現行犯逮捕を狙って尾行を続けていた刑事のスジンらも、サンヒョン一行を追い始める。
一組目の夫婦からウソンの容姿をバカにされた挙句、大幅に値下げを交渉されたことに激昂したソナによって交渉は破断、サンヒョン一行は拠点の釜山に戻らずウソンの養父母探しの旅を続けることとなる。
その道中、かつてドンスが育った養護施設を訪れ、ソナもドンスの過去を知り、徐々に打ち解け始める。
出発した一行の車の中に、施設にいるはずの少年・ヘジンが乗り込んでいた。
ブローカーの話を聞かれた一行はヘジンも連れて行くことにする。
果たして、一行の旅の行方、そしてウソンの未来はー。

久しぶりに摂取した是枝監督成分。
同監督作品は『海街diary』『そして父になる』『三度目の殺人』だけですが、これらから滲み出ていた監督成分が今作にも凝縮されていました。

まずは「ベイビー・ボックス」という、言ってしまうと母親の最後の逃げ道、そして「ベイビー・ブローカー」という、サンヒョンいわく“善意”の人間。
自分の意思と反して妊娠し、経済的な事情で育てられない親のために設置されている「ベイビー・ボックス」については、作中でも母親に逃げ道を用意しているものだと言及している場面がありましたが、個人的には序盤のうちからそうは思わず、むしろ子供の未来を考えるなら必要な選択肢の一つなのかなと思います。
そしてブローカーについては、人身売買とも言えるし、どれだけ綺麗事で飾ろうと法に反して不当に利益を上げているため、“悪”には変わりないのですが、養子縁組という制度がある以上、そういう仕事がある、それを生業としている人物がいることは“必要悪”なのかなとも思います。

個人的には『三度目の殺人』とのリンクを感じていて、こうした社会的に不条理、不義理な行為が横行していてもその是非について作中で明確に問題提起をするのではなく、あくまでその中で生きる人々を描いていた印象です。
ただ金のために、自分のような境遇の子供を増やさないために、自分の子供を案じているがゆえに、法に反した行動をしている、その中で連帯感が生まれ、ウソンに対する想いを共有していく過程も観ていて違和感なく腹落ちしました。
しかしそうかと言ってもやはりやっていること自体は悪に変わりなく、サンヒョンたちに感情移入をしていけばしていくほどハッと俯瞰した時には観ている側も悪側に傾いているという、白石和彌マジックと共通していた点を感じました。

これも『三度目の殺人』との共通項ですが、作中で起きたウソン関連の出来事を受けて、社会的には何も変わらない、変わるきっかけにすらならないというのは皮肉めいたメッセージ性を感じましたが、個人が秘めている想い、登場人物たちの今後を示唆する手法については、さすが是枝監督だなと思った次第です。
サンヒョンは姿を消し、ドンスとソナは方の裁きを受け、ウソンはスジンに預けられることとなる。
子供への接し方がわからなかったソナはドンスに、彼が親から言われたかった感謝の言葉を胸に秘め、再会の日を待ち望む。
明確に場面で描写されたわけではありませんが、もうこれだけで彼らの未来は完全な光ではないけど闇でもない、微かでも確かな希望に包まれているんだなと言う安心感を得ることができる、鑑賞後感もとても良い作品。

どんな形でも邦画界の人物が関わった作品を契機に、今後の韓国映画鑑賞への道が拓ければなと思います。
Jun潤

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