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レベッカのesのネタバレレビュー・内容・結末

レベッカ(2020年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

ダフニ・デュ・モーリアの小説が原作。それ自体で完成されている優れた作品の映画化というのは、何かを切り捨てるか全く別の作品として語り直さないと難しい。今作はそれができなかった。

演出の技量なのかもしれないけれど、肝心のレベッカの影が薄いからハラハラしない。かつリリー・ジェームズが"わたし"という存在が不安定な主人公を演じるには強すぎてバランスがあまり良く無い。
『レベッカ』は『シンデレラ』的要素を持った作品だから華やかなキャスティングに、かつ主体性に重点を置きたかったからこのキャスティングになったのかもしれないけれど、あまり上手くいっていないように思える。
ヒッチコックが他の登場人物と得意の「予感」を感じさせる映像術で輪郭を形作り「レベッカ」に軸を起きサスペンスを撮ろうとしたのに対し、ウィートリーは「わたし(リリー・ジェームズ)」の成長譚に重きを置いたから演出のバランスが悪くなったという問題もあるかもしれないけれど、全体的に演出が説明的で余韻や含蓄がないからレベッカに対する想像力があまり掻き立てられないのが1番の原因のような気がする。ヒッチコック版より原作小説に忠実に作られているけれど、何もかもが曖昧だった。

ラストは、レベッカ(支配者)の側に主人公が回ったというように自分は捉えたけれど、スリラーにするには怖くなく、成長譚にするには成長度合いが弱く、メロドラマにするには二人の関係性が弱い。

「"わたし"が困難に打ち勝った」成長譚と思わせておいて、レベッカという存在に恐れを抱きながらも憧れを抱くようになった無垢だった私が、日常に溢れるサブリミナル効果により徐々にレベッカ色に染まっていき、新たなレベッカ"となった。というラストだと明確に分かる作りだったら最高に楽しめたかもしれない。

大切な所有物に自分の存在を刻みつける行為を好んだレベッカが最後に取った行動に彼女の歪みと魅力が凝縮されていると思うんだけど、レベッカの描写が重要視されていなかったから、彼女に関する諸々が全て宙ぶらりんになっていて残念だった。
ダンヴァース夫人役のクリスティン・スコット=トーマスがぴったりだったからこそ、ラストをもうちょっと上手く演出して欲しかった。火曜サスペンス感…。「去った」という原作の記述に従ったのかもしれないけれど、ダンヴァース夫人がレベッカに抱く思いを崇拝よりも特別な感情と匂わせるのであれば、レベッカの欠片が詰まった屋敷と共に朽ちる事を選ぶ方が彼女らしいと思う。

映像の幻想的な雰囲気は主人公が屋敷に抱く異世界感と非現実に対する憧れからなのか。
キャスト陣が美術に馴染んでいるし、衣装は美しく、映像は幻想的なので視覚的には楽しめる。 
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