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ヘルムート・ニュートンと12人の女たちのfujisanのレビュー・感想・評価

3.8
『これから、どんなに屈辱的なことがあっても、どんなに惨めな目に遭っても、心は毅然としていなさい。いいね』



ファッション写真の巨匠、ヘルムート・ニュートン。本作は彼の足跡を女性たちの視点からたどるドキュメンタリーですが、最近観たドキュメンタリーの中ではずば抜けて面白かったです。

ファッション誌『VOGUE』やハイブランドの写真を撮り続けたヘルムート・ニュートン。彼は既に2004年、84歳で自動車事故によって亡くなっていますが、今でもファンの多い写真家です。

過去、何かのレビューに書いた気がしますが、私自身、昔写真をやっていたこともあり、亡くなったことは衝撃でした。ただむしろ驚いたのは、直前の作品からはとても80歳を超えているとは思えない若々しい写真を撮っていたことでした。

時代がちょうどマッチしていたこともあると思いますが、ある意味、羨ましいなと思える人生の描かれ方でした。



ヘルムート・ニュートンは1920年にドイツ、ベルリン生まれ。本作を観るまで知りませんでしたが、ユダヤ人であったこともありナチス・ドイツの迫害を受けていたようです。

ただ、本人が語っているように、彼の写真の基礎はベルリン時代のもの。
彼の写真の特徴は、

・女性のヌードを積極的に撮影する
・筋肉の陰影を重視し、背が高い女性を好む
・媚びない写真を撮る

という感じで、同時期の写真家ピーター・リンドバーグの写真*1 に比べ、議論を起こすような写真ばかり。

これらは、ジェンダーの意識が変化している現代では到底撮れない写真ばかりですが、本作の監督は、今この作品を公開することで、行き過ぎたポリコレに対する議論が起こってほしいという思いがあるようです。*2

ポリコレ=ポリティカル・コレクトネスとは、”言語表現や創作物、社会制度などからあらゆる差別をなくすべきだという考え方のこと”。最近では、「リトル・マーメイド」の主人公アリエルを黒人女性が務めたことが話題になりましたね。

本作は、”こうあるべき” という姿を提示するわけではありませんが、議論は続けるべき、という思いが込められているように思いました。



時代の流れもあり、今はファッション写真もエモくて優しい写真が多い印象ですが、個人的に注目しているのは、イギリスのファッション誌などでも活躍されている日本人カメラマンのTAKAYさん。*3

最近ではコーセーの広告で大谷翔平の写真を撮っていましたが、今後さらに有名になっていきそうなので、注目しています。



冒頭のセリフは、ヘルムート・ニュートンが日本人女優、石田えりさんに掛けた言葉。

現役中は色々と物議を醸したヘルムートですが、本作を通じて、一貫して女性の強さを応援されていた方だったように見えました。


(参考URLはコメントにて)
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