fujisan

ボイリング・ポイント/沸騰のfujisanのレビュー・感想・評価

3.7
本当の闘いはコロナとの闘いだった。

映画のキャッチコピーは、『90分、脅威のワンショット/NOカット、NO編集、CG不使用』

クリスマス前で満席のロンドンの有名レストラン。戦場のような厨房とホールの忙しさを、12年間シェフとして働いた経験のあるフィリップ・バランティーニ監督が90分のワンカット撮影で完成させた快作。

似たような作品には、ブラッドリー・クーパーがシェフを演じた「二ツ星の料理人」など数多くありますが、本作の最大の特徴はワンカット撮影。

ワンカットと言えば、古くはヒッチコックの「ロープ(未見)」や「1917 命をかけた伝令」、「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」などがありますが、どれもいくつか編集点がある”疑似ワンカット”。しかしこちらは、正真正銘のワンカット撮影作品です。

Youtubeにメイキングが上がっていますが、手ぶれ補正のポータブルカメラを背負ったカメラマンが役者の後ろを付いていって撮影。

すべてのセリフや段取りを役者が理解し、カメラで映っていない部分で役者は休憩しつつ、監督や脚本家と次の準備。そしてカメラが再び回ってきたらまた演技。もし明らかなNGが出たら、そこまで何分間撮影出来ていようとも、最初からやり直しっていう、恐ろしい緊張感。

そんなリアルな雰囲気もあり、雰囲気的にはNHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』のようなドキュメンタリータッチになっているのですが、短い中にも多くの人間ドラマが描かれており、正直、よく作ったな、と思います。

観終わったあとに撮影秘話などを読み込んだのですが、撮影期間は2日間。最後まで撮り切れたのは4テイクで、その中から3テイク目を採用したそう。準備期間が長かったとはいえ2日間という短さは驚き。

というのも、本作の制作は2020年。まさにコロナ・パンデミックの直前で、初日の撮影後に『あさってからロックダウン』ということになり、ロックダウン前日ギリギリのプレッシャーの中で全員が集中し、撮り切った奇跡のカットなんだとか。

戦場のようなレストランの裏側を描いた映画でしたが、撮影そのものもコロナ禍とのギリギリの闘いであったことが分かるエピソードでした。



最近、街なかで、イライラしている年配の人をよく見かけます。吉野家で店員に怒ってるおじさんとか、コンビニで店員に怒鳴ってるおばさんとか。
個人的にそういうのを見るのがすごく嫌で、有名なラーメン屋などで店の大将が店員(弟子?)に怒鳴りまくってたりしますけど、いくら美味しい店でも絶対行かないようにしています。

こういった映画あるあるですが、本作も序盤は不機嫌なシェフが怒鳴り散らすシーンが多く、う~ん🤔と思ったのですが、こうならざるを得なかった描写が描きこまれており、気がついたら惹き込まれて観終わっていました。

ワンカット映画としては貴重な作品で、楽しめる90分間でした。

余談:
エンドロールの最後の写真。個人的にはジャッキー・チェン映画のように『みんなで頑張って撮りました』的な記念写真かと思ったのですが、違う解釈もあるようですね。皆さんのレビューを見て、初めて気づきました。

メイキング:
7/15公開 映画『ボイリング・ポイント/沸騰』特別映像
https://youtu.be/fYvOtEIVHjM?si=i9SNwtooeCXrgjP1

映画『ボイリング・ポイント/沸騰』第2弾 特別映像 《キャスト編》
https://youtu.be/DmmuN0Hil2U?si=UkpoOd-WZrtLLxXQ
fujisan

fujisan