IMAO

拝啓天皇陛下様のIMAOのレビュー・感想・評価

拝啓天皇陛下様(1963年製作の映画)
4.0
野村芳太郎、1963年の作品。
昭和初期から60年代までの二人の男の運命を描く。棟本博(長門裕之)は昭和六年に岡山の歩兵隊に入隊する。そこで出会ったのが山田正助(渥美清)。二人は軍隊特有の世界の中で訓練やシゴキを受けながらも、友情を深めてゆく。だが、極貧の中で育った山田にとって三度の飯にありつける軍隊はある意味楽園だった。彼はある時演習を見学に来た天皇の姿を見て以来彼は天皇に親しみを抱くようになり、遂には手紙を出そうとまでするが…

昭和の運命に翻弄された二人の話だが、普通この手の話はどうしても暗く陰鬱になりがちだ。だがこの映画に一貫して流れているのは、微かなユーモアだ。それはやはり渥美清と長門裕之という二人の才能に依るところが大きいと思う。(もちろん野村芳太郎の才能も含めてだが)二人だけではなく出演者全員の芝居のタイミングや動きがテンポが良く、観ていて飽きさせない。彼らの芝居は決して重苦しくなくある種の「軽み」がある。フランソワ・トリュフォーは優れた役者は「軽みのある芝居」を演じることが出来る、と語っていたがまさにこの二人はそういう芝居を見せてくれるのだ。ユーモアとウィットを持ってこの映画が語っている事自体は決して明るい訳ではないのに、後味は決して悪くない。だからこそ、この映画はしっとりと心に沁みる。

野村芳太郎作品は『砂の器』『八つ墓村』『鬼畜』ぐらいしか観ていなかったが多作。まだまだ観たい作品がある。
IMAO

IMAO