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映画大好きポンポさんのtakのレビュー・感想・評価

映画大好きポンポさん(2021年製作の映画)
4.9
映画のテーマや登場人物に自分を重ねてしまった瞬間の震えるような感激。その感覚を味わえた映画は、きっとその人にとって愛着のある作品になる。映画ファンなら幾度も経験があるだろう。でもそれは自分の内なる感情であって、その様子を目にすることなんてありえない。ところが、映画製作の現場を描いたこの作品は、映像を観てビビッとくる感覚、そして「これはオレじゃないか!?」とオーバーラップする瞬間の心の動きが、見事に映像化されている。アニメだからできた表現だと思うのだ。

敏腕プロデューサーのポンポさん、その下で新人監督となるジーン、新人女優のナタリーを軸にしたこの物語。pixivに投稿された原作コミックは、映画ファンの間でも人気があるとは聞いていた。映画愛を扱ったラノベやコミックはこれまでもあったから、どうせ作者のディープな知識を詰め込んだものなんだろう、と僕は勝手に想像していた。

ところがだ。長編アニメーション作品となった本作は、その予想を遥かに超えてきた。冒頭に書いた鑑賞者の立場で刺さる場面はもちろんいい。この映画がすごいのは、制作陣、クリエイター側の立場や現場がきちんと表現されていて、しかも見ている僕らのクリエイティブマインドに火をつけるかのような熱が込められている。思ってることを表現したいという気持ちは、誰の心にも眠っている。それはアーティストの仕事だけじゃない、劇中登場する銀行員のアランだって同じ。重役相手のプレゼン場面は、映画製作場面以上に心を揺さぶってくる。

「そこに君はいるのか?」
そのひと言、シビれました。

創作するって楽しい。こういう創作魂が、世界で製作される映画やアニメの現場を支えている。昔風に言うなら活動屋のスピリット。時代が変わっても映画製作に込められた熱い思いは同じなんだ。映画は一人で作ってるんじゃない。携わる人々の映画愛がたまらない。でもコロナ禍でこういう人々が苦しい立場になっているのも事実。

日頃、アニメなんてねと敬遠している硬派な映画ファンにこそ、「ポンポさん」を観て欲しい。キャラの絵が好みじゃないとか、声優のいわゆるアニメ声が苦手だという人もいるだろうけど、この作品はそんな人を
「アニメのくせに、映画ってもんをよーくわかってんじゃねぇか!」
と言わしめる(かもしれない)力を持っている。ストーリーよりも、この作品に込められたスピリットに感激。映画っていいよな。

最後に。ポンポさんの言う上映時間の90分って大事なことだ。観る側に無理のない時間でいかに訴えたいことを表現できるか。僕も以前から同じことを思っていただけに激しく共感。長けりゃいいってもんじゃない。「パプリカ」「オルランド」「運動靴と赤い金魚」なんて90分で見事に語り倒してる大好きな映画だもの。そしてこの「映画大好きポンポさん」も然り。

今回は幸運にも試写会で観る機会に恵まれた。感謝です。元気もらいましたw
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