シランガナ

ヒルビリー・エレジー -郷愁の哀歌-のシランガナのレビュー・感想・評価

4.1
超一流の監督、俳優、音楽家を集めて作ったNetflix資本の作品。つまらないわけがないです。

特にお婆ちゃん役のグレン・クローズは今年のアカデミー賞でのノミネートは確実だろうし、これと言った対抗馬がいない現状では授賞される確率もかなり高いかと思われる。なにしろ一番原作のエッセンスを理解して演技していたのは彼女であったと思う。

エイミー・アダムスもやはり上手いが、やり過ぎ感は否めず、なんかちょっと違う映画になってませんか?という印象。紙一重なんだけどヒステリー持ちの依存症の母親という役をやるには彼女はあまりにも適役すぎてしまったと思う。

加えて、映画の冒頭タイトルが出てから最初にクレジットされるのがキャスティングディレクターの名前だったが、それだけキャスティングには強い自信がある事が伺えたし、この2名をキャスティングしたらそれは勝ちだろうなという感じ。

ただし、映画作品としては確かに良くできているのだが、原作とはかなりかけ離れた内容であることは留意したい点。
元々、原作となった自伝は2016年トランプ旋風が吹くアメリカにおいて、「ラストベルト」や「白人至上主義」などの言葉が注目されていた中、その一角にいるヒルビリーたちの実態を描写した著書という意味でベストセラーになり日本でもすぐ翻訳本が出たという経緯がある。

ヒルビリーという存在は日本にいると余計にわかりにくいが、アメリカでも文化的にほとんど描かれていなかった存在であり、アパラチア山脈の辺りに住んでる貧乏な部族主義の覚醒剤作っているような謎のアイルランド系集団、というようなマイナスイメージが強い集団としての認識が強いように思う。ヒルビリーと言えばハットフィールド家vsマッコイ家、みたいな思われ方もあるようですし。
というか、語弊を恐れず言えば、すでに製造業が死んだアメリカ社会においてあまり意義のある集団ではなかったということだろう。だからこそトランプ旋風の真ん中に位置した存在としてにわかに注目されたのだと思われる。
(僕も興味持ってヒルビリーについて調べたり本を探したこともあるんですが、体系づけて書かれている本ってほとんどないんですよね。)

近年では「ウィンターズ・ボーン」や「オザークへようこそ」などの作品で描かれるようになったが、古くからの作品では、明らかにヒルビリーを明確化して描いている作品はほとんど無いと言える。

つまり、原作は生々しく閉塞感しかないヒルビリーのコミュニティから運よく抜け出すことができた著者のサクセスストーリーでもありつつ、アメリカ社会の持つ埋めようのない格差などの問題についての本であった。

しかしながら映画ではどちらかというと家族の愛の物語となっていて、これって別にヒルビリーが主題じゃなくても変わらない普遍的なことなのでは、という感想。
ほんの少し、ヒルビリーの家族集団主義的な性質やラストベルトについても触れられてはいたが、物語的にはあくまでエッセンスとしての扱いに過ぎなかったのでその点は残念。

ロン・ハワードはいい監督ではあるけどそういう難しいことやアメリカの暗部的なものを描くのはあまり得意でないというか、フォレスト・ガンプを見てもわかるがあえて避ける傾向があるので必ずしも本作には適任ではなかったのかもしれない。

長々述べましたが映画としては二重丸です。
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