takanoひねもすのたり

殺人ホテルのtakanoひねもすのたりのレビュー・感想・評価

殺人ホテル(2020年製作の映画)
2.9
核災害にみまわれた近未来の世界。
街は荒廃し、霧と曇天が空を覆い薄暗く、生き残った人々は飢えに苦しみ日々を生きることさえままならない。
ある篤志家がホテルで一夜限りのディナーショーを開催するという。
それに参加したある一家が体験する恐怖の話。

主要登場人物は
レオ(ギッテ・ヴィット)元女優
ヤコブ(トマス・グルスタッド)レオの夫
アリス(トゥーヴァ・オリヴィア・レーマン)ふたりの娘
マティアス(ソービョルン・ハール)ホテルのオーナーかつディナーショーの演出家

ショーが始まった後、いつの間にか娘アリスがはぐれてしまい、子供探しに奔走するうちにホテルの裏側に気がつくという展開。

ここで開催されるのはイマーシブシアター(没入型劇場)
何となくブロードウェイの『Sleep No More』を意識しているようで、
・観客は仮面をつける
・観客はそれぞれ"見えざる者"として会場内をうろつき回る
・観客個人がそれぞれのドラマを目撃し物語を追ってゆく。

この設定がホラーとの親和性が良さそうなので、やってみた……という感じの作品。
監督はヤーラン・ヘルダル。
現在は20台前半?の若手監督。
長編は2作目で一作目はSF、17歳の時に制作だそうで。
Netflixも思い切った投資をするなあ……そこは評価したい。

作品は……いろいろ詰めが甘い😅
飢えに苦しむ人々を餌で釣って誘い込み食い物にするという筋書きはオーソドックスなカラクリで、イマーシブシアターの設定を活かすためにその世界観があり、核災害後という要素は特に重要ではない。
強いてなら"食べ物がない"「外には何も無い、仲間になれ」という台詞を強調させるためだけの装置。

現在、ロシア対ウクライナの情勢が原発に直接影響があるので、ある意味でタイムリーな設定ではありますが。

レオが元女優という過去を逆手にとって場の支配をマティアスから奪い取るところは上手い伏線回収。

彼女が最後に振り返るのは、元女優であり、いっときでも"役"を演じたあの場所、スポットライト(例のホテルだけ曇天の間から日差しが指して明るく輝いてみえる)が当たる舞台への拭い難い未練なんだろうか。

原題の『Kadaver』は死体、献体の意。

監督の映像のセンスと将来に気持ち加点。