ゆみゆみ

ドライブ・マイ・カーのゆみゆみのレビュー・感想・評価

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
4.2
村上春樹の文章が好きで、綴られる言葉の並びが素晴らしくて、だからこそ映像化するのは無意味だなってずっと思ってきた。ほぼ実写化は見たことがない。
この原作は短編で私はまだ読んでいないのでそこと対比することができない。だから言えるのかも知れないけど、この映像化は完璧だと思った。

3時間と思って身構えてたけど1時間くらいあっという間に過ぎて。なんで1時間がわかるかと言うと、その辺りでキャスティング・スタッフの表示が出たから驚いて時計を見た。始まってまだ10分くらいなのかと思っちゃって。今かーーーーと思いながら、ここからドライブマイカーって感じだった。


演出家で俳優の家福(西島秀俊)は妻で脚本家の音(霧島れいか)と褥を共にしている。事後、音が物語を語り始める。
入りがとても良い。劇中劇としてチェーホフの「ワーニャ伯父さん」を家福が演出するが、セリフで物語を語らせる映画なんだなって教えてくれる。
この先、音の語る物語、高槻(岡田将生)の過去、家福の告白、みさき(三浦透子)の生い立ち等々、セリフのみで語られ回想は一切ない。なのに観終えた今、びっくりする事にその語られたシーンが頭に映像で残っている。そんな映像観てないのに。

とても丁寧に物語を映像化していて、呼応、対比、共感を端々に感じる。登場人物の中で主人公家福が一番キャラが薄い。村上春樹の描く主人公はキャラが薄い男が割と多いと思う。拘りがあり、見て見ぬふりをし、心はあまり強くない。
その代わり周りはキャラが強い。高槻は特に面白くて、単純で複雑というような両面性があって惹きつけられる。
とりあえず岡田将生が最高だったわ。こういう役の岡田将生大好き。大豆田とわ子の慎森みたいな捻くれてるけどアクのない役も可愛らしくてとてもいいけど、高槻のようなある意味でサイコパス、ある意味でただの馬鹿みたいなよくわからないキャラやらせたら、お顔の良さもあって最高にハマる。
あと、家福に西島秀俊持ってきたのは天才だった。今、原作ポチって届くの待ってるけど、絶対原作のキャラにハマってるはず。

滝口監督が何を伝えたいのか…わからないけど感じるものはたくさんあった。
劇中劇「ワーニャ伯父さん」で、役ごとに話す言語が違うのにまるで通じ合っているようにセリフを交わす。日本語、韓国語、北京語、英語、そして韓国語の手話まで。
言語も文化も見た目も違うけどまるで同じ地球人だって言われてるような。そういう世界であって欲しいと単純に思うし、そうなりたいと自分自身も思う。
また、音が吹き込んだ劇のセリフの中で「人は仕事をしなければなりません」と言うのがあった。それが妙に心に残ってて、そしてみさきの「運転は変わりません。私の仕事ですから」と言うセリフがくる。
あのコーヒーのCMじゃないけど、世界は誰かの仕事で出来ているし、仕事をすると言うことは歴とした社会の一員であり、互いに支え合う世界の一員なんだって思う。
ある事がきっかけで「ワーニャ伯父さん」の続行が難しくなった時も、今続行かを考える時か?と家福が迫った時にプロモーターの女性が私達に出来ることはそれしかない的なことを言ってて、ここでも結局自分達は仕事をするしかないんだなと思った。そして家福も…。

家福(かふく)って禍福かな。
村上春樹のキャラクターは変わった苗字の人が結構いる。そういうのでも忘れられなくなったりするね。

さて、オスカーはいかに!
作品賞獲ったらどうする!?
強敵はウエストサイドストーリーかな
ゆみゆみ

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