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ドライブ・マイ・カーのyukkeのレビュー・感想・評価

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
4.6
静かな空白の時間。
溢れる涙は少ないけど、ずっとずっと内臓の奥まで届いて浸透する。そんな映画。
終わった瞬間、はぁ〜っと大きな溜息が出た。
息が浅くなるぐらいのめり込むような
そんな映画は久しぶりだった。

家で見たら、集中できないタイプの映画だと思ったので、遅ればせながら映画館で鑑賞。
好みは分かれる映画だと思うが
私は観に行ってよかった。


沈黙と静寂の時間に、じわじわと自分の深部に何かが近づいてきたような感覚を覚えた。
手話の静けさで言葉の重みが増す。
静かで息を呑む時間が増えるほど、奥までこの映画が浸透してくるような感覚。


正しく傷つくべきだった。
それはきっと子供の頃から自分が一番苦手としてきたもので、なぜかいつも、誤魔化して平然なふりをしてきた。壊れるのが怖かったのか、恋に愛に振り回される自分を見るのが嫌だったのか。

手話で彼女が語りかけてくれる時間が、まるで宗教のようで、光を当ててもらっているような、救いのような感覚になった。


自分の過去と向き合った時、
ドライブ中の車内が、一番本音を出せる時間だったように思う。運転手でも助手席でも。
母と、仲間と、同居人と、恋人と、
言いにくい事を優しく穏やかに話してきた場面は、ドライブ中の車内が多かった。
目を見ずに、相手に話しているのか自分に話しているのか分からないような不思議な空間。
自然と聞きにくいことも聞けてしまう。

傷ついている時、誤魔化している時、
その時間に何度も救われていたように思う。

喪失と再生、
自分がどうすれば正しく傷つけるのか
どうすれば本音をそっと吐き出せるのか
自分は不器用な人間だからこそ、
それを知っておくことは大切なことなのかもしれない。
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