ナガエ

スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたちのナガエのレビュー・感想・評価

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「闘いの歴史」なのだなぁ、と感じた。
二重の意味で。

もちろん彼女たちは日々、危険なアクションシーンと闘っている。怪我をするかもしれないし、命を落とすかもしれない中で、鍛え上げた肉体と、身につけた技術を武器に、普通の人には不可能だろうと思われることをやっていく。その闘いの姿は、実にカッコいい。

しかし、彼女たちの闘いは決してそれだけではない。

【今でも女のスタントを見下す人はいる。全員じゃないけど。だから新しいクルーと組む時はいつも、実力を見せつけることにしてる】

類稀なドライビングテクニックを持つ女性スタントの話だ。

女性スタントの歴史は、「女だから」という偏見との闘いの歴史でもあった。「危ないからやらせられない」「結婚したら使ってもらえないよ。子供が出来たらなおさらだ」「泊まりの仕事を断ったらもう仕事は来ないよ」。「女だから」という理由で、排除されていく。

今では、女性のアクション監督もいる。しかし、全体で見てみればごく僅かだそうだ。スタント業界は基本的に未だに男の世界だという。この映画に登場する男性陣はもちろん皆、女性スタントの存在を称賛しているが、恐らくそれは一部の声ということなのだろう。日本以上に女性の権利にうるさそうな(イメージです)アメリカでも、まだまだ「女性だから」という理由で簡単に排除されてしまう世界なのだ。

【男性が女装をする時、力不足を感じる】

今も、女優の代役を、かつらを被った男性が演じることもあるそうだ。

しかし、当たり前だが、女性にしか出来ないこともある。例えば、露出が多い服を着たシーンであれば、体つき的に男性にはこなせないだろう。しかし、だからこその難しさもある。女性は特に、露出が多い服を着なければならないことが多いから、膝や肘などの身体の部位を保護するパッドをつけられない。女性スタントたちが、「男性スタントは体中パッドばっかり」と揶揄するような場面もあった。男優の場合、露出が多いことは少ないから、服の下にパッドを仕込めるのだ。また女性の場合、歩きにくい靴や、動きにくい服を着てスタントをしなければならないことも多い。そういう意味で言えば、女性にしか務まらないシーンにおける女性スタントの危険度は、男性スタントよりも増すと言っていいだろう。

映画は基本的に、様々な女性スタントへのインタビューと、彼女たちが代役を務めている映画のシーンの挿入で構成されている。女性スタントは、若手や中堅といった人たちも登場するが、女性スタントの黎明期から活躍してきた、若手や中堅からすれば「レジェンド」という存在の人も登場する。「骨折をしていたけど怪我を隠してスタントをした」とか「背骨を二度折った」とか「山の斜面から61mも滑り落ちるスタントが一番大変だった」というような様々なエピソードを、レジェンドたちは語っていた。その多くが、今では引退しているが、「またやりたい」と話していたし、ある者は、ハリウッドでも数少ないアクション監督として活躍してもいる。

レジェンドたちの話にはやはり、ここまでの来歴の困難さが端々に滲む。スタント協会に入れてもらおうとしたけど、女性だからダメだと言われて、女性スタントの協会を作ったなど、女性スタントとしての地位を確立していくことの難しさみたいなものが伝わってきた。また、レジェンドの一人は黒人女性なのだけど、黒人スタントは女性だけではなく男性も差別されていたという話をしていた。黒人スタントが存在を認められるまでは、白人が顔を黒く塗って行っていたという。

そういう、スタントの過去を振り返る歴史の中で、非常に興味深いと感じた話がある。アメリカでは、1910年代頃から西武で映画製作が盛んに行われていたという。その当時は、女性や移民も活躍していて、安全策もろくに講じないまま、女優(代役とかではなく)が危険なシーンをやらされていたようだ。1910年代頃まで、映画産業は女性に支えられていたと言ってもいいそうだ。

しかしその後、「西武で作ってる『映画』ってのが儲かるらしいぞ」ということがアメリカで広がり、儲けを狙って男性がじゃんじゃん入り込んでくるようになったという。そのせいで、それ以降の80年間、女性はつまらない役しかやれなくなったのだという。大体において(僕を含めて)男ってのはロクでもないわけだけど、ホントにこの話も、ろくでもないなと感じました。

まあそういう、歴史や背景的な部分も興味深いのだけど、やっぱり、スタントシーンの映像には驚かされます。昔の、まだCGがそこまで発達してない時代の映画なら、大体どれも人間がやってるんだろうと想像は出来るんだけど、今の時代だと割と、CGで色んなことが出来ちゃうから、「こういうのもちゃんと人間がやってるんだ」と感じるシーンが結構ありました。映画を観てて、「こんなカーチェイスのシーン、どうやって撮ってるんだろうなぁ」と思ったりすることあるんだけど、緻密な計算の元で、人力でやってるんですね。すげぇなと思います。

映画の中でレジェンドの一人が、「私たち女性スタントは、二流市民のような扱いを受けている」と言っていました。なんというのか、凄く寂しい言葉だなと感じました。スタントの世界に限らないけど、努力や技術や才能をきちんと評価できる人間でありたいなと思いました。
ナガエ

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