ぽん

共謀家族のぽんのネタバレレビュー・内容・結末

共謀家族(2019年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

レイプ被害にあった娘が相手の男を誤って殺してしまった。娘を守るために父親が完全犯罪をもくろむ。なんの取り柄もない平凡な男が「映画好き」という唯一の強みを生かし、これまでに観た犯罪映画のトリックやアリバイ工作を真似して捜査の手を逃れようとするという物語。よく出来てて面白かった。

証拠の隠蔽から尋問のシミュレーションまで抜かりない映画オタクの主人公のキャラが抜群に面白い訳ですが、これ、下手するとブラック・コメディになってしまう。でも事件そのものは警察を欺いて「やったね!」で済ませるには重すぎる。本作はその辺のバランスのとり方が絶妙で、そーくるか!という決着の付け方に唸りました。

最初の方で『ショーシャンクの空に』の話が出てくるのだけど、主人公は「脱獄の話がなんで面白いのかって刺激的だからだよ」と言い、部下が「自由の素晴らしさがテーマだ」と言うのをスルーしている。実はここが本作の裏テーマ。ショーシャンクの脱獄が爽快なのは主人公が無実だからだ。

でも、この『共謀家族』の主人公はたとえ警察の目をだまし通せたとしても、本当の意味で自由ではない。そこのところを、主人公のお布施を拒否する僧侶の存在や寺院から鳴り響く「後悔の鐘」の音などで、さりげなく問いかけてくる。

本作は「刺激的」な面白さでグイグイ引っ張りつつも、最後には罪から解かれ本当の意味で自由になるという、人のあるべき姿を生真面目に描いているのが気持ち良い。主人公だけでなく、敵役の方にもそのチャンスを与えてあげている懐の深さに感じ入った。

最後に。
作品の中で大活躍する(?)ヤギの話。聖書の中では人々の罪を担う身代わりとして神に捧げられているのがヤギ。スケープゴート(生贄)ですね。本作ではいくつかのスケープゴートが出てくる。
まず、ヤクザみたいな警察官が主人公に対する腹立ちまぎれに撃ち殺すヤギ。主人公の身代わりです。次にクライマックスで棺の中から出てくるヤギ。署長の息子の身代わりですね。
最後に、これは私の個人的な解釈ですが、娘のピンピンちゃん。父親との仲がギクシャクしてたけれど、この事件を通して和解する。父娘の絆を取り戻すための生贄の役割を果たしていたのかなと。

もう一つ、ヤギの話。
ピンピンが学校で授業を受けているシーンで、教師が「ヤギは目が悪いので遠くが見えず、群れからはぐれて1匹になると捕食されてしまう」という話をしていた。これ、この家族が警察に捕まったとき、末娘が一人だけ署長に別室に連れていかれるシーンを思い出させる。ここでこのコが真実を話してしまうのだ。だけど、逆にこの子の目が悪ければ、あの夜のことは見なくて済んだ。バッチリ見えてしまったがために証言することになってしまい、捕食されてしまったという皮肉。
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