しの

浅草キッドのしののレビュー・感想・評価

浅草キッド(2021年製作の映画)
3.3
ちょっと豪華なテレビの再現Vみたいな印象だった。反復を利用してちゃんと時間経過を感じさせる脚本はさすがだったし、役者陣の演技は素晴らしかったが、監督はちゃんと客観視できる別の人を立てて欲しかった。終盤で泣かせとノスタルジー満載になってしまったのが致命的だ。

2段階の回想構造から入る冒頭はヒキがあって良かったと思う。また、時代変遷モノとしてしっかり「思えば遠くへきたもんだ」感を出せる脚本というのはそれだけで及第点だろう。居酒屋で爆ウケからのハイヒールのくだりは白眉だと思う。ベタだが、笑いと表裏一体にある哀しさと、それがもたらす救いを感じられる。

しかしだからこそ、自分はこの映画はタクシーを見送る師匠のカットで終わるほうがまだ良かったと思ってしまうのだ。その後に描かれる師匠の顛末、後から語られる美談、それをいちいち説明する映像、トドメにノスタルジー満載の思い出巡り……。正直、一気に胡散臭くなったなと感じてしまった。

確かに、深見師匠へのリスペクトは感じる。しかし、ここまで泣かせとノスタルジーを全面に押し出されると、都合よく美化された話だなと一気に冷めてしまうのだ。記録がほぼ残っていない人物ならば尚更、本作ですべきは彼で感動させることではなく、彼に想いを馳せさせることだろうと思う。終盤で急に距離感がおかしくなった感じがある。

あとは単純に、時代の再現を頑張っている割にあまりロケーションの映し方が面白くなかったり、会話劇なのに全体的に凡庸な固定アングルばかりだったり、『タップのテーマ』を使う演出を何度もやりすぎだったりと、技術的な面で映画というより感動的なVTR映像のように思えてしまった。

以上のような観点から、やはり脚本はともかく監督まで劇団ひとりがやらなくても良かったのではと思う。渥美清へのリスペクトを感じさせる大泉洋の演技が素晴らしかったからこそ、最後は多くを語らず粋に終わらせて欲しかった。
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