耶馬英彦

デストラップ/狼狩りの耶馬英彦のレビュー・感想・評価

デストラップ/狼狩り(2020年製作の映画)
4.0
 自然にとって人間は邪魔者だといった議論はあるし、生態系の維持だとか絶滅危惧種の保護だとか自然環境の保全だとか、もっともらしい正論も幅を利かせている。しかし地球の長い歴史からすれば、人類もその極く一部に過ぎない。恐竜が善でも悪でもないように、人類も善でも悪でもないのだろう。

 深い森の奥に3世代前から住んでいても、その森の持ち主とは限らないが、同じ森に住む動植物を、自分たちが生きるために殺したり伐採したりするのは、ある意味で人間らしい行動だ。人類の先祖は、狩猟と採集で生をつないできた。それは食物連鎖の一環でもあった。

 本作品は、原始的な生活をしている家族が暮らす森に、森の主のような狼が戻ってきたのではないかという、見えない恐怖からはじまる。仕掛けた罠に掛かった動物を食い荒らした跡は、釣れて取り込もうとしている魚をサメに食いちぎられたみたいで、野生の獰猛さがうかがえる。
 危険な狼が森にいては、狩猟生活に支障が出るのは明らかだ。駆逐するしかない。しかし森を荒らしていたのは、狼だけではなかった。

 生き残りをかけた争いは、森の木々に紛れて、居場所を探り合うことからはじまる。先手を取らなければならないが、後手を引くこともあるし、不意打ちを食らうこともある。そんなつもりではなかった家族が、否応なしに命がけの闘いに巻き込まれてしまうところは、リアリティがあった。登場人物にも容赦のない展開は、安易な結末を許さない。とても面白かった。
耶馬英彦

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