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TOVE/トーベのt0moriのレビュー・感想・評価

TOVE/トーベ(2020年製作の映画)
4.2
期待に違わぬ傑作だった。

早くから、アニメ化などでムーミンに親しみを持っている日本において、誤解されたトーベ・ヤンソン像を改めさせるだけの力を持った、実に美しい作品。特にコアなヤンソンファンにとっては、長らくご本人の意思に反して日本ではタブー視された、セクシャリティについてを前面に押し出し、事実に基づいた作品として高い評価に値する伝記映画。ムーミンシリーズと時系列に並べて、何が彼女の創作に影響を与えたのかも、うまくリンクさせて描かれていたと思う。

ただ1箇所だけ、気になる点が。
『ムーミン谷の冬』らしきイラストの描写が、時系列的に本が書かれる前にチラッと挿入されていたような気がするが、あれは合っていたんだろうか? あの辺は時間の流れ的にも点描てきに流して進んでいる所だったから、あながち間違いでもないのかも知れない。
【追記】
考えてみるとあれが『ムーミン谷の冬』のイラストからの引用なら、やはりあのタイミングはおかしい。トゥーリッキさんと一緒に暮らし始めてからの制作の筈だし。そして、惜しむらくはそこまで描かれなかった事か。トゥーリッキさんをモデルとしてトゥーティッキ(おしゃまさん)が生まれる瞬間までがあれば、トーベの愛もある意味完結というか、終の伴侶という形になったのだが。

音楽もトーベさんの趣向を表してか、自由を感じさせるものばかりで、それに合わせて踊る、おそらくトゥーリッキさんの8ミリにより撮影されたご本人のダンスが、涙を誘う。

主演のアルマ・ポウスティさんは、顔立ちが特別トーベさんと似ているわけではないのだけど、佇まいがもう、いくつかの映像で親しんだトーベさんそのもので、次第にご本人にしか見えない憑依ぶりだった。特にくわえ煙草の姿がもうね。

それと、つくづくフィンランドは、芸術家に一定の評価を与え、時に重用することを厭わない文化が根付いてるんだと思う。かつては性差別が激しかったようで、トーベさん自身が評価されたのは後年になってからのようだけど、ヴィクトルさんが評価によって生活が左右され、行き詰まっていく様など、それ自体は辛そうだけど、職業として定着しているのを感じた。

以前、フィンランドに行った時にお参りしたお墓に、ヴィクトルさんと一緒に入っているという事を知っていたので、スクラップブックのシーンには落涙。そのお墓の頂上にはトーベさんをモデルにした、ヴィクトルさん作の赤ちゃん像が据えられていたから。
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