Stroszek

キャラクターのStroszekのネタバレレビュー・内容・結末

キャラクター(2021年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

江野スミが描く劇中漫画のクオリティがとんでもなく高く、実際に読んでみたくなるレベル。作中の創作物がキーとなるフィクションの説得力は劇中作品の出来に左右されるが、江野スミの劇中漫画は本作の主役と言ってもいいほどだ。

もう一人の主役は、四人家族ばかりを狙う連続殺人鬼、両角修一を演じるFukaseである。ハッピーボイスキラーとでも言いたくなるようなイノセントな細い声音とベビーフェイスで、次々に大量殺人を犯す。人生を乗っ取るカルト的な人物は、ああいう柔和な声を用いるのだろうと思わせる。両角宅の四人家族を描いた壁画もこの人の作らしいが、ファンの人たちはFukaseのこういう面をどう受け止めているだろうか。それとも彼らにとっては彼のエキセントリックな側面も魅力なのだろうか。「殺人ってのはたいへんなんだ!やったあと二日も寝込むんだよ」(うろ覚え)みたいな台詞がこんなに似合う演者もいない。

主人公の漫画家、山城圭吾と両角の共通点は、どちらも"創作"に夢中であることだ。二人とも綿密に下調べをし、"作品"を作り上げたあとは大きな達成感を示す。漫画家の制作現場と殺人者の戦利品部屋が似通ってるのは偶然ではない。

なんで世間の人は事件と漫画『34』の関連性に気づかないのとか、現実だったらワイドショーあたりが漫画と現実の事件を結びつけて騒ぐはずとか、いろいろ疑問点はある。作中の犯人にあれほど似た風貌の男がうろついてたら、誰かは何かに気づくでしょ、と思った(特に漫画雑誌の編集部内で両角そっくりのPOP広告を見たときに)。

それにしても、カルトを事態の元凶とする安易な作劇が、21世紀以降は増えたと感じる。Fukaseの役の掘り下げが凄いだけで、脚本家や監督といった製作陣は両角に関してそれほど細かい設定を作っていなかったのではないか。四人家族を至高とするコミュニティの理念、両角の動機や来歴は結局よく分からない。

高畑充希の"理解のある彼女さん"ぶりもすごかった(実際は奥さんだけど、世間の"理解のある彼氏さん"というミームに対応させているので、この書き方の方が相応しい)。この人はなにを演じさせても巧みだ。

武衛(鎌倉殿の熱心な視聴者)の一人としては、「え、梶原景時が北条義時の上司で、御曹司の源義経から証言取ってる…?」と、別の意味で面白かった。

韓国映画でのリメイクが見たい作品が増えた。
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