もーりー

心の傷を癒すということ《劇場版》のもーりーのレビュー・感想・評価

4.3
安先生の言葉の一つひとつが、かつて自分が目に見えない何かに押しつぶされそうになっていたときの記憶を撫でてくれた気がした。精神科医ひとりの人生に寄り添ったドラマの劇場版でありながら、見るものそれぞれの中にある、掴みどころがない心の扱い方だったり、窮する者をどこかぞんさいに扱ってしまった過去だったりを見つめ直す機会を与えてくれた気がします。

「弱いってええことやで。弱いからほかの人の弱いとこが分かって助け合える。」
「人間は傷つきやすい。今後、日本の社会はこの人間の傷つきやすさをどう受け入れていくのだろうか。傷ついた人が心を癒すことのできる社会を選ぶのか。それとも傷ついた人を切り捨てていく厳しい社会を選ぶのか。」

スクリーンから現れるそんな言葉を受け止めていたら、ただただ溢れてくる涙がどこから来たのか自問自答していました。同時に、心の奥底でいだいていた精神病と生きる患者さんへの偏見のようなものを恥じました。本態は同じじゃんね。

人の心なんてどうでもええんや。そう言った安先生の父は、心の底からそう思っていた訳ではないと思います。父は父なりに、在日として無辜の民ながらも苦しい時代を生き抜き、添え遂げたいパートナーをみつけ、悩み多き商売の世界を渡り歩いてきたはず。そんなときに生じる扱い難い胸懐を、いわゆる男らしさを突き通し、自分の中で濾過し続け、無いものとしてきたんだと思います。安先生が自身の苦しみを誰に預けてよいか分からなくなったとき、病床に伏す父にだけボソッと伝えられていたのは父のそんな思いを理解したからではないでしょうか。とまぁ乱筆乱文で身の丈に合わず考察を書こうとしたくなるほど、心動かされるよい映像でした。書きたいことは山ほどありますが、そこは作品本編にお任せしたいと思います。

さいごに、僕自身、見失いつつあった医学部生として学び続ける原動力を掘り起こせた気がします。大切な、側にいてほしい人がずっと笑顔で居てくれるように頑張らなきゃなと心に決めた土曜の夜です。