幽斎

マークスマンの幽斎のレビュー・感想・評価

マークスマン(2021年製作の映画)
4.0
「Marksman」アメリカ陸軍歩兵小隊、選抜射手。「Sniper」ターゲットから長距離専門の狙撃銃を用いる精密射撃要員。マークスマンは専用のDesignated Marksmanと呼ばれる小銃を使う。Tジョイ京都で鑑賞。

それにしてもLiam Neeson、今年の6月で満70歳!よく働きますね。近作でもレビュー済「スノー・ロワイヤル」「ファイナル・プラン」「アイス・ロード」私が良く見てるだけか(笑)。今後もクライム・スリラー「ブラックライト」。ベルギー映画「ザ・ヒットマン」リメイク「メモリー」。スペイン映画「暴走車ランナウェイカー」リメイク「Retribution」。更にハードボイルド・ミステリー「Marlowe」と待機作も目白押し。彼は性格的にも裏表が無いので末端の裏方にも好かれる、妻のNatasha Richardsonを亡くした悲しみを仕事で紛らわしてるのかもしれない。

本作はRobert Lorenz監督の持ち込み企画。監督と言えばClint Eastwood御大の右腕としてハリウッドで知らぬ者は居ない。「ブラッド・ワーク」の製作で信頼を勝ち得て以来「ミスティック・リバー」「ミリオンダラー・ベイビー」「硫黄島からの手紙」「父親たちの星条旗」「グラン・トリノ」彼の尽力で資金集めに奔走、Eastwood御大との二人三脚で数多くの名作を世に送り出した。功績が認められEastwood主演「人生の特等席」監督デビューを果たす。未見の方は是非、爽やかな風が貴方の心にも吹くだろう。

予告編がテレ東の午後ローなテイストで一見するとスナイパー映画だが、タイトルでスナイパーよりも格下ですと暴露してるので、淡泊なロードムービー+シリアスなヒューマンドラマ。「クライ・マッチョ」の前は本作が有力だったが、脚本の比重でLorenz監督に裁量権が与えられた。因みに狙撃手映画の代表作「アメリカン・スナイパー」もEastwoodが監督、Lorenzがプロデューサー。だから本作はジェネリック「クライ・マッチョ」とも言える。Neesonは候補の3番手だったらしい。

未だに「96時間」のイメージから観客が抜け出せない様だが、本作で肩透かしを喰らった方はご愁傷様(笑)、スクリプトは如何にもEastwood御大が好きそうなセンチメンタリズム。プロットが「人生に絶望した老人が凶悪組織に追われる少年を助ける」。私は劇場で観ながら「グラン・トリノ」を想い出したが、確かに言われなければEastwoodが監督したと聞いても違和感は無いだろう。最近の御大は「己の死に場所を求める」テーマなのかと訝しくも悲しく思う自分が居る。

何かEastwoodとNeesonって接点有った様な気がしたが、劇場から帰る車の中で思い出した。ダーティハリー最終作「5」ホラー映画の監督役。私が最初にNeesonを見たのは「ダークマン」。今や大英帝国勲章の名優に成長、感慨深い。GSの店員って見た事有るなと思ったら「アイス・ロード」でNeesonと共演済。原題はアメリカ独立戦争でクーデターに与した民兵「The Minuteman」だったが公開直前に差し替えられた。面白かったのは一緒にホテルで観た映画「奴らを高く吊るせ!」Eastwoodの代表作、本作の重要なメタファーでも有る。

劇場で観ながら「アリゾナ~シカゴ」ザックリとアメリカ大陸縦断とは思ったが、帰宅して調べたらソノ距離何と2800km!。私も車で走った事有るRoot-66経由だが、京都に住む人間にはサッパリ距離感が掴めないが、因みに26時間掛かるらしい(笑)。控え目に言って「逃避行」なんて言える距離じゃ無い事がお分かり頂けただろうか?。追手の麻薬カルテルもヘリとかセスナとか使えよ。金が無いのかもしれないが、その前に暇かよ(笑)。

暇な割にハイテクに通じてる様で、行く先々のクレカ情報で彼らの位置を把握する。ミッション:インポッシブルかよ(笑)。スリラーなら懲罰モノの展開ですが、基本人に優しい追跡劇で、印象に残ったのがガンショップ。私はアメリカに住んでた時に護身用に銃を持ってました。一頃は永住権が無いと駄目らしいですが、外国人でも合法的にアメリカに入国、非移民ビザを保有しアメリカ国内に就労する。つまり観光客はダメ、ショップでライセンスを取れば買えます。私が居たのは銃規制が厳しいカリフォルニア州でしたが、問題なのは店員が法律を勉強して無くて、外国人だからと門前払いするケースが非常に多い。お陰で英語が身に付きましたけど(笑)。

州を跨いで銃を購入する際は、犯罪歴を照会する為にスグには買えない。これは法律で定められてますし、破ればガンショップも犯罪に加担した罪で逮捕される。しかし、Neesonはベトナム帰還兵だから助けて欲しいと懇願する。店主の兄がベトナムで戦死した過去が有り、銃を渡してしまう。似たシーンは別の映画で何度も観てますが、流石のNeesonの演技は説得力有ります、アイルランド人だけど(笑)。日本と同じ様に、アメリカも戦後は終わって無いのだなと。ラストの余韻は「しんみり」心地良かった。

人生狂騒曲、こんな映画を休日の午後に観るのも大人の嗜みだと気付いた自分が居る。
幽斎

幽斎