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竜とそばかすの姫のRYのネタバレレビュー・内容・結末

竜とそばかすの姫(2021年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

真摯に主人公の成長を描き、そのための世界&キャラ設定を絵で押し通す作品。
歌も絵のテイストも力があってさすがの演出力。

バケモノの子のときと全く変わらない構成(主人公の成長を記号化したストーリー)だった。

脚本に否定的な意見が言われがちだが、やりたいこと(母の不在からの回復)を全て体現するための構成になっていた。
しかしキャラの役割の多くが記号的だった。

母がいなくなって「生きる世界」が変わった鈴が、母がいない現実を受け入れるためのお話。
その出来事として異世界に匹敵するSNSが扱われているけれど、その世界観を掘り下げたいわけではないのが伝わってくるとともに、設定とやりたいことの矛盾も散見されるのが少ししんどい。(ジャスティンをはじめとする諸々のキャラへの批評性が皆無なので、お客さんが感じるツッコミどころを誰も拾ってくれないまま事態が進行する。それに疲れちゃう人もいるだろう。)


〜母のおもいを自覚する〜
水難で隔離された子供を助ける母のように、
文字通り炎上するネット内で孤立した竜を助けるベル

そこで理解した母のおもい(勇気)を胸に、現実の世界でも虐げられた子供を(母と同じく)1人で助けに向かう。

(母娘で楽しく過ごした水がのちに災害となって牙を剥くように、歌を歌えてのびのび過ごせたUが炎上して牙を剥くという対立関係が意図的に組まれている)


〜竜にとっての救い〜
「助ける」と口先だけで何も行動をおこさない人間たちに絶望をいだいていた恵は、鈴の「実際に行動をした姿」によって救われる。あくまでも恵にとっての現実が変わったかどうかが大切で、平和な生活を手に入れたかどうかはこの作品内では重要視されていない。


〜最後の行動への批判〜
亡くなった母への劇中の批判と、鈴の行動の無謀さに対する現実世界での否定的な感想は、意図的かどうかは別として重なる部分もあるだろう。(まわりの大人の対応への批判も大いにあるだろうけども、それはあの氾濫の中母に全てを託した周囲の大人も同じ構図だ)


〜しのぶによる母性の裏付け〜
人生から母性が欠落してしまった鈴を補完するためにしのぶがいて、あのとき掴んだ腕を非情にも振り切るように顔出しを後押しする。
この辺りは特に、外部の人間(アバター)による手出しができないような異常な世界設定(SNSというよりは異世界ファンタジーのような世界観)だったりのせいで、見てる人にスリルを与える下地が整っていないといえるし、
それしか解決方法はないの?って思えるシチュエーションになってしまっていた。
帰ってきた鈴にしのぶはお母さん役の卒業を暗示し、鈴にとっての母性が回復したことを観客に示している。

〜ラストの意味〜
母の存在(不在)を回復して帰ってきた鈴に父は「おかえり」と言える。父はあの日から母に「おかえり」という言葉をずっと言いたかったはずだ。それはもう叶わないけれど、彼女の面影を背負った鈴が帰ってきてくれた。
いわばラストは父と母の物語にもなっていた。
喪失から回復した鈴は、やっと家族で一緒にご飯を食べられる日常を手に入れる。
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