紅の猫

竜とそばかすの姫の紅の猫のレビュー・感想・評価

竜とそばかすの姫(2021年製作の映画)
3.0
言いたいことはわかるしもっともだと思う。

だがしかし、ストーリーとして消化不良で、そこを無視できるほどのイマジネーションが作品を支配しているとも言い難い。
これが宮崎駿なら少々の物語的な破綻に気付かせもせずに人と社会について思いを馳せさせるだろう。
「サマーウォーズ」の焼き直しという印象が拭えない。

作品テーマとしては、人と人の繋がりは電子空間であってもお互いに影響し合うし、匿名性の高い空間であってもそこにいるのは生身の人間であるという点にある。

「サマーウォーズ」は社会インフラとしてのOZ、今作では現実とは別の人格を作り出しコミュニティや自己表現の場となるUと、同じ電子空間でも性質が異なっている。
そのせいもあってか、田舎、村社会、血縁、連帯といったOZとリアル社会の対比が現代性と消えていく日本社会を強く浮かび上がらせた「サマーウォーズ」に比べ、個人的心情が重要な本作はどこまでいっても内省的である。いろいろな人が関わっている割には主人公2人の心情で話が展開し解決してしまう。

社会的な立場や役割よりも個人に焦点があたる点が現代なのだろうとは思うが、所属する社会を無視して人は存在できないのも事実。高知県の田舎が舞台となっているが、舞台設定が効果を発揮しているとは思えず、東京では駄目な理由が見当たらない。

細田監督は社会では無く、個人の心情世界に興味があるのではないかと思う。
それはそれで作家性だが、細田監督が宮崎駿の後継者足り得なかったのはこの辺りに原因があるのではないだろうか。
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