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レンブラントは誰の手にのSPNminacoのレビュー・感想・評価

レンブラントは誰の手に(2019年製作の映画)
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レンブラントの描いた肖像画を取り巻く人々を描くドキュメンタリー。登場人物が多く複雑なんで、刑事や探偵の部屋によくある壁に顔写真と資料を赤い糸で繋いだ相関図が欲しくなった。
それぞれに「我がレンブラント」があり、人と絵画の様々な関係がある。貴族シックス家御曹司にとっては「レンブラントの絵ってより、ご先祖の絵」として見慣れたもの、新興成金にとっては欲望そのもの、専門家修復家にとっては畏敬の対象、母国オランダとフランスには政治家のメンツ(喧嘩上等DNAなフランス…)、そしてバックルー公爵にとっては愛してやまない家族同然。名画をバックに写真を撮る者たちにとって、見せたいのは自分だ。
そんな群像劇と共に、映画はレンブラントのタッチやテクニックをじっくりまざまざと見せつける(あのレース描写は神業!)。画家自身のエゴや所有者のエゴを、乱反射するかのような絵の力。光と影を駆使して生々しくそこに居るかのような肖像画と、所有者たちの光と影。淡々と意外な展開を見せるそのカオスは、同監督の『ようこそ、アムステルダム国立美術館へ』『みんなのアムステルダム国立美術館へ』もそうだった。でもって前回の美術館ドキュメンタリーにおける仏像男子メンノさんに当たるのが、バックルー公爵である。
あんな純粋に絵画を愛する人はなかなかいないのでは…特権階級の中でも突き抜けて浮世離れしてるというか、エゴがないのが真の特権階級というか。他の絵と違って、彼の元にある「読書をする老女」の視線はこちらを向いていない。俗世間から距離を置くように。この絵と公爵のエピソードこそ一番の「発見」だ。
バックルー公爵の場面だけはレンブラントの陰影そのまま。彼は絵画の中と同化し、まさに絵と同居してる。ナードの理想像として、これ以上恵まれた幸せはあるまい。
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