ナガエ

パニック・イン・ミュージアム モスクワ劇場占拠テロ事件のナガエのレビュー・感想・評価

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「モスクワ劇場占拠事件」は、ニュースで見た記憶がある。ただ、いつ起こった事件なのかも覚えていなかった。映画を観終わった後調べたところ、2002年10月23日だそうだ。そんな前だったか。もっと最近の印象があった。

この映画が、事実をどの程度踏まえているのか分からない。

例えば、「モスクワ劇場占拠事件」で調べると、Wikipediaには「特殊部隊が突入する際、非致死性ガスを使用した」みたいなことが書かれている。しかし、映画にはそんなシーンはなかった。

そもそも映画を観ながら、「これはどの程度事実なんだろう?」と感じる場面は結構多かった。女性歴史教師が犯人グループと話をしているという状況はともかく、一番「ホントか?」と感じたのは、詳しくは書かないがメチャクチャ大活躍するオッサンの存在だ。映画的に面白くするために付け加えられた人物かもしれないのだけど、さすがに彼のような人物があんな活躍をするみたいなことがたまたま起こり得るんだろうか、と感じる。

そもそも、実話を基にした映画ではよく出てくる「この映画は実話を基にしている」という表記が、今回の映画にはたぶんなかったはずだ。無かったからと言って実話ベースではない、と言いたいわけではないが、「これは本当に事実として起こったのだろうか?」と感じるような場面が結構あったと思う。

実話を基にした作品であっても脚色が施されている作品は多々あると思うのだけど、この映画にもし脚色が加えられているとしたら、物語の結構根幹とも言える部分に手を加えているような気がするので、もしそうだとしたらちょっとしっくりこないものを感じる。確かに、映画全体としては面白かったのだけど、「これが事実だとしたら凄いよなぁ」というプラスアルファのポイント加算は、ちょっと保留にせざるを得ない気がする。

人間関係の部分で創作があるのは別に良いと僕は思うのだけど(この映画でも、恐らくこの関係性はフィクションだろうなぁ、と感じるものはいくつかあった)、起こった客観的な出来事の部分は手を加えてはいけないような気がする。いや、手は加わってないのかもしれないのだけど、それが判断できないなぁ。

内容に入ろうと思います。
冒頭では、モスクワの劇場に観客として足を運ぶことになる様々な人物が描かれる。その中でも重要なのが、アッラ・ニコラエフナだ。彼女は歴史の教師だが、学校を辞めさせられたようで、恐らく現在は無職。しかし生徒からは慕われており、かつての卒業生が彼女を公演に連れ出す。実は、ロミオとジュリエットを題材にしたその演劇の主演男優は、彼女の教え子の一人なのだ。その日はまさに彼女の誕生日であり、「誕生日を迎えた先生に、教え子の公演をプレゼント」という趣向になっている。
観客が席につき、開演してしばらくした後、突如武装集団が舞台上に乱入、発砲を始める。彼らは、妊婦と外国人とイスラム教徒を解放し、残りの観客を人質として立てこもる。彼らは特に要求らしい要求を出すでもなく、ただ観客に「3分やるから色んな人間に劇場で立てこもり事件が起きていると伝えろ」と言い、その後携帯電話を回収した。
警察や軍も到着するが、要求を出さない相手にやれることはない。明朝の突入を検討し、ひたすら待機している。
そんな中、歴史教師のアッラは、チェチェン人としてロシアに憎しみを持つというイスラム教徒の襲撃犯たちと、歴史認識や宗教の議論を繰り広げる。彼女は、銃を持つ相手にひるむことなく、ただしロシアだけに正当性があると主張するでもなく、あなたがたの行動は無意味であることを理解させようとする。犯人グループの一人は、彼女との議論を長く続けるが…。
というような話です。

なかなか面白い作品だったのだけど、ただ冒頭でも書いた通り、「これが事実なら凄いな」という加点がないとちょっと大きな評価に繋がらないかな、という感じはします。派手なアクションはあるけど満載という感じではないし、劇場では日本人にはちょっと馴染みのないチェチェンとロシアの歴史の話をしているし、観客の関係性は事件が始まる前のかなり短い時間にぎゅっと詰め込まれているからなかなか捉えるのが難しい。歴史教師とのやり取りはなかなかスリリングで、メチャクチャかっこよかったから、個人的にはこの議論のシーンは好きだったんだけど、一般的にこのシーンがうまく評価されるかは分からない。

似たような実話を基にした映画だと、「ホテル・ムンバイ」の方が圧倒的に面白かったかな。
ナガエ

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