IkTongRyo

戦場のメリークリスマス 4K 修復版のIkTongRyoのレビュー・感想・評価

4.4
日本映画界の巨匠が残した、人間が持つ価値観のぶつかり合いに挑戦した作品。日本人が抱いた強い欧米への劣等感と憧憬。欧米人には理解ができない武士道や神道・仏教観。異なる視点で、極限状態の人間の生きかたを描く往年の名作。

この映画には男しか出演しない。しかし、映画史に残るキスシーンがそこには描かれている。

テーマソングは有名なので知っていたが、肝心の本編は一度も観たことがないので4K上映されて本当に嬉しかった。こういう映画はマジで劇場で観ないと意味がない。

この映画を語る上で外せないものが二つある。それはキャスティングと音楽だ。

デイヴィッド・ボウイ、坂本龍一、ビートたけし・・・主要なキャスト陣は全員俳優ではない。俳優ではないからこそ、独特な演技が不思議な空間を演出する。

その中でもビートたけしが本当にいい。やはり彼はスターだ。彼の自然体な演技が一番輝いており、デヴィッド・ボウイや坂本龍一が霞んで見えてしまう。観終わったあと、最後のたけしの笑顔と拙い英語で発する”メリークリスマス。メリークリスマス、ミスター・ロレンス”だけが脳裏に焼き付く。

坂本龍一はお世辞にも演技はいいとは言えないが、本当にいい目をしている。何かに囚われている、そんな目を。

デヴィッド・ボウイは紛れもないカリスマ。その圧倒的な存在感で、立っているだけで画が映える。


そして今作を象徴する音楽。誰もが知っているメインテーマもそうだが、やはりシンセサイザーによって作られた不思議な劇中音楽が80年代感バリバリで面白い。その80年代のテクノ音楽が40年代の戦時中の世界観と合わさることで、より特殊な作品へと昇華される。やはり坂本龍一は天才だ。


このような意欲的で歴史に残る日本の作品はもう作られないのだろうか?まるでハリウッドのような卓越した演出は日本から失われてしまったのだろうか?映画らしい映画はどこに行ってしまったのだろうか?

僕が目指している東洋と西洋の価値観が融合されたハイブリッドな作品。その完成形がこの『戦場のメリークリスマス』かもしれない。

色々な意味で衝撃的な作品でした。
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