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ボストン市庁舎のギルドのレビュー・感想・評価

ボストン市庁舎(2020年製作の映画)
4.8
【市長の正義は対話を通じて市民の心に宿る】
強市長制を採用しているボストン市を舞台に、マーティン・ウォルシュ市長の挑戦劇を描いたドキュメンタリー映画。

ドキュメンタリー映画作家で有名なフレデリック・ワイズマン監督の作品を初めて見ました!
前作「ニューヨーク公共図書館」でワイズマン監督の存在を知ったけど当時は長尺ものに苦手意識があったため敬遠してました(笑)
実際に本作を見たら、どうしてこの人の作品にもっと早く出会わなかったんだろう…と思うほど満足度の高い作品でした!

■見どころ:市民と対話するフットワークの軽い市長の姿
本作の中で関心したのはウォルシュ市長があらゆる場面にて市民と対話する姿と繰り返し発言される「○○を助けたい。そのために我々がいる」と伝える所です!
部署間の連携、住宅拡充、老人への社会保障、外国人登用、看護師の労働問題、NAACPなど…本作は4時間半の中で様々な内容を様々な場所で取り扱っている。
その内容の多くにウォルシュ市長が登場して市民の声に耳を傾け続けて助言をする。ウォルシュ市長は「扉を開けて自由に羽ばたいて欲しい」「声を通じてボストンを変えて欲しい」「困ったら話しして欲しい。その声は必ず目を通す」 と常に訴え続けていて、そのフットワークの軽さと温かさは素晴らしかったです!
一方でボストン・レッドソックスの祝勝記念や食材の物流面ではどこか人間味のある姿を見せていたり、退役軍人や障がい者雇用施設での記念日では「あなた達のお陰で今がある」「仲間に入れてくれてありがとう」と敬意を払う姿は政治家として人間としてどちらも素晴らしくて、それが結果に繋げているのも頷けます。

本作はそういった様々な切り口でボストン市の抱える問題に真っ向から向き合って協力しながら前進したり、時には州政府/国家に立ち向かってボストンの全貌を出来るだけ捉えようとする姿を見れます。随所にボストン市の街並みや生活感ある風景をも映しつつ、ありのままを映して決して誘導する作りにしてない所も主題に沿った誠実さがあると感じました。


■見どころ:劇映画のような見る推進力の強さ
そんな作品ですが見事だと思ったのは、ドキュメンタリー映画ながらもどこか劇映画のような構成になってて4時間半の長さをあまり感じさせない作りかな。

本作はカンファレンスが多い作品であるものの、随所に住宅街やオフィスビルに市庁舎などを撮影するシーンが含まれています。
それも尺稼ぎに映しているだけかと思ったら、撮影する対象をチェーホフの銃のように扱い…そのテーマをカンファレンスで扱う。(下請け業者の契約話、駐車禁止、文化の多様性、退役軍人など)
そういった要素の何が良いかというと、本作を観る観客もその背景を目で捉えれるのでカンファレンスの中に多少は参画出来るのが授業的ではない参加型作品の魅力があると感じました。

中でも印象的なのは退役軍人のウォルシュ市長の話と大麻栽培ビジネスを進めるアジア系のボストン市民の話かな。
ここは他のシーンと比べて尺が長めに取られている。
退役軍人の話では、軍人らへ話す市長の姿だけでなく常に背景に軍人たちの写真が並んでいる。つまり、彼らの活躍のおかげで今のボストンがある…というのを絵で表現する姿はより説得力があって良いと感じました。

大麻栽培ビジネスを進めるアジア系の市民の話では起業しようする者と現地人の対話を中心に撮影されるが、その姿が本質的にはウォルシュ市長の姿と似ている。
その後の行く末は分からないが話をしていって、協力しながら前へ進もうという想いが醸成されている姿を目撃することが出来る。
本作の真髄は対話する・話を聞く・解を提示して救いを述べる…にあるけれども、それらの会話の中には「不安」「孤独」「悲しみ」という核が内包されていると感じました。
そういったものを対話から抜き出す姿は「死霊魂」のようなものを感じますが、本作が見事なのはそういった負の核に対して何らかの形で救いを述べる愛情があるところかな。

民主主義として厳格に成り立つ一方で、
・住宅の申請(消防法?)で施工管理技士と徹底的に会話する職員
・駐車禁止された市民に対する職員が事情を聞いてニーズを汲み取った上で許す
・立ち退き勧告対策会議で取りまとめるシエラの柔軟に意見を聞き入れる
・ホームレス問題について取り組むマーティ
・大麻の店を立ち上げて経済を良くしようとするアジア人

など、ウォルシュ市長の想いが様々な役職・立場の人々に受け継がれてボストン市の向上に繋げていく力強さと温情を兼ね備えた「声で生活をより良くする」大傑作でした!

EDの使い方まで一貫した所も含めて大満足です!

■あとがき
凄く良かったです!Amazonプライム・ビデオで過去作
『パリ・オペラ座のすべて』
『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』
『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』
があるので、近い内にそれらの作品を追ってみようと強く思う、そんなきっかけになった作品でした!
まだ見ていない人は是非、劇場で鑑賞してみてください!
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