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アクアマン/失われた王国のしののレビュー・感想・評価

アクアマン/失われた王国(2023年製作の映画)
3.3
これでDCUは一旦打ち切りで、次からガン体制なわけだが、こういう終わり方でまだ良かったと思う。もちろん総決算なんてできないし、なんなら既視感すらあるのだが、今できる精一杯ではある。少なくともポジティブな幕引きではあった(ワーナー・ブラザース映画から招待いただき試写にて鑑賞)。

前作と比較するとよく分かるが、ジェームズ・ワンの娯楽大作! というより、なんとか纏めました……感の方が強い。色々と場面転換するのにスケールは小さく見えるし、ドラマは軽い。それでも空中分解せずにちゃんと纏まっているように見えるのは流石というか、お疲れ様ですというか。

自分は前作で海側の罪が深掘られなかったのが片手落ちだと思っていたので、次作では「欲望に走って滅びた歴史があるのは海側も同じなのだ……」というところから陸と海のコミュニケーションについて深掘って欲しかったのだが、そんな真面目にやってる場合じゃなくなったよなと。

今回、結局やっていることが前作の発展というより反復に近い。軸にあるのは兄弟で先代と同じ道を繰り返すのか? という話で、またもや海側の歴史にこんな闇があって……という背景が語られ、そこを乗り越えて陸側に歩み寄ろうよという話になる。大枠にだいぶ既視感がある。アクアマンの続編として考えるのであれば、本来は「そうはいってもどうやって歩み寄るんだよ」という発展を描くべきだと思うのだが、兄弟はなんか最初からそこそこ打ち解けてるし、海と陸の確執もなんか強引に無視されてしまう。つまりドラマらしいドラマが実はほぼないということになっている。

しかしこれは、期せずして本作が打ち切りになったDCUの(一旦)最後の作品になってしまったというのも影響していると思う。色々とゴタゴタしたのだろうし、なんとなくいい感じにそこそこ纏まった感を演出する方を優先したんだなと理解した。

それでも最大限楽しませようという意思は感じる。もちろん、ブラックマンタの扱いの中途半端さとか、兄弟のドラマを描きたいのか前作のような楽しい場所めぐりをしたいのかわからない中途半端さとか、苦心の跡は感じるのだが、しかし事務的に仕事を終わらせてやろうという感じではない。巨大化したアレのくだりとか、なんとか楽しんでくれみたいな足掻きを感じる。

なにより、誰も触れたくない、誰も責任を取りたくない、みたいなポジションだったであろう本作を、終わらせること自体を目的化せずに最後までなんとかエンターテイメントとして形にしようとした制作陣の姿勢に一番ヒロイックなものを感じた。どのみち打ち切りなら、『ザ・フラッシュ』の匙投げた感じよりは、『アクアマン/失われた王国』の「たとえ既視感だらけの理想でもちゃんと打ち出してやれることやった」感ある終わり方のほうが自分は良かったと思う。DCUを労うにはいい作品だった。ジェームズ・ワンお疲れ様としか言いようがない。

※感想ラジオ
【ネタバレ感想】最後のあがきを感じる!『アクアマン/失われた王国』はDCUの鎮魂歌 https://youtu.be/7itVJj4GRjY?si=etQaD-8rBKwgBmho
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