緋里阿純

オキシジェンの緋里阿純のネタバレレビュー・内容・結末

オキシジェン(2021年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

医療用ユニットで突如目を覚ました記憶喪失の女性。ハッチを開けることは出来ず、刻一刻と減少していく酸素量の中、自らの正体を探ってゆくアメリカ・フランスのシチュエーションSFスリラー。

医療用ユニットの中で突如覚醒した謎の女性。彼女は、極低温保存用の特殊な繭に包まれており、覚醒した事により繭が呼吸を妨げてしまいいきなりの大ピンチという強烈な幕開け。
女性は記憶喪失だが、ユニットに内蔵されたミロというAIとのやり取りを通じて、自身の映像を投影させて容姿を確認したり、検索エンジンを駆使して自身が科学者エリザベス・ハンセン博士である事、夫レオ・ファーガソンの存在等、徐々に自分の正体を探って行く。ユニット内の酸素量は33%、生存可能時間は最大で72分(現状の活動を続ければ43分)というリミットを提示され、限られた時間内での解決が求められる。

本編の殆どが医療用ユニットの中でのみ展開される為、あらすじを一見すると平坦な作品にも思える。しかし、ミロとのコミュニケーションや外部との通話連絡(警察や謎の女性).もあって、二転三転するスリリングな展開が用意されている。
また、中盤で明かされる医療用ユニットの現在位置が宇宙空間である事、終盤で明かされる人類は新種のウィルスによって残り2世代で滅亡する為、クローンを乗せた宇宙ステーションで別の惑星に移住する事、エリザベス(リズ)もまたクローンである(通話相手はオリジナルの自分だった)という展開は、SFらしい驚きに満ちている。

また、公開年が2021年という事を踏まえると、恐らく本作はコロナパンデミックの真っ只中で人類の滅亡すら予感させた世界的な危機的状況下を反映させた、それがアイデアのキッカケになったものと思われる。

しかし、作品を構成する魅力的な要素の数々に対して、イマイチ盛り上がり切れない。酸素量が限られているのに、エリザベスが度々ヒステリックを起こす様子や、通話相手の女性からの情報提供を一度は拒否したり(元はオリジナルのエリザベスが状況を飲み込めずにこちらからの最初の着信を拒否したとはいえ)と、自ら進んで危機的状況を加速させている姿が苛立ちを覚えさせるのだ。
また、肝心の酸素量も「再覚醒の際に必要になるから、最低2%は残せ」という指示を果たせなかったどころか、最後にミロが「故障ポッドから酸素を移送出来ます(但し、システム変換に時間を要する為、どの道休眠はして下さい)」と告げるという「なんじゃそれ!」というご都合展開には冷めてしまった。
というか、中盤で他にも多数のユニットが存在する事は判明したのだから、その時点で真っ先に「酸素を少しずつ分けてもらえないか?」と考えるだろとツッコまずにはいられなかった。
本来、天才的な科学者であるはずのエリザベス(クローンだが、知識や経験は移植済み)が、脚本の驚きを演出する為にこうした不適切な行動を取り続けるのは、ハッキリ言って美しくない。

AIのミロも、聞かれた事にしか答えられない、適切なワードを用いた質問にしか回答しないという融通の効かなさは、近未来を舞台にしたSF作品としては些か不親切なAIだなと思った。
緋里阿純

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