玻璃

ひらいての玻璃のレビュー・感想・評価

ひらいて(2021年製作の映画)
4.8
傍から見たら異常ともいえる、暴力的な"愛"だった。
自らをも破壊しそうなほどに。
本人すら気づいていないその本質をいち早く見抜き目を向けさせたたとえと、彼女の激情を受け止めた美雪。
抱いていた恋心は叶わなかったけれど、ふたりに踏み込んだことで最終的に愛の心は救われたのではないかとすら思える。
本当の木村愛を見てくれたのは、このふたりだけだったのかもしれない。
ジャンルとしては三角関係の恋愛映画で、愛は失恋してボロボロになっていく可哀想な女の子だ。でも私はどうしてもそれだけを描いたものには思えない。たしかに始まりは恋だったし失恋もしているけど、最終的にあの3人の関係はもっと深いところに行き着いたように感じずにはいられない。私だけだろうか.....

原作を読んだうえで鑑賞したため特別理解に困るようなところはなかったが、一緒に見た原作未読の友達はよく分からない部分も多かったと言っていた。
小説では地の文で愛の心中が分かるのに対して映画ではどうしても愛の言動の理由が推測の域を出ないから、これは小説と合わせた方がより楽しめる映画かもしれない。
そしてところどころ原作とは違う描写が挟まれているため、映画を見た人と小説を読んだ人とではまた違う受け取り方ができそう。

台詞で多くを語らないから、主要人物三人とも、目の演技がとても印象的になっていた。愛の暗く淀んだ目。たとえの警戒心と嫌悪感を剥き出しにした目。美雪の人の顔色を伺う目.... 直接的な言葉がないのに読み取れてしまうほど、こんなにも人間の感情は目に宿るのかと思わされた。

演出としては、「ピンク色」がとても特徴的な映画だと思った。よく恋心はピンクで表現されるから、恋に溺れてしまっている愛の世界を表しているのかなと思った。
そんな感じで、他にも細かい演出から見て取れる登場人物の心情や変化が色々とあって面白い。

もっともっと書きたいことはあるけど、既に長すぎるので我慢....1回見たくらいじゃ絶対にわからない。もう1回見に行きたい🥲
作間くんのファンなので、彼の出演がなければきっと出会わなかった物語。エンドロールが終わった瞬間、この物語に出会えてよかった、好きだと直感的に思った。


⚠️以下ネタバレ考察、自分用メモ⚠️


ラストシーンの、愛から美雪に向けた「また一緒に寝ようね」という言葉。
小説ではこのシーンが最後ではなかったためこの言葉にどんな意味があるのか理解できなかったが、映画を見て少しわかった気がする。

これまで、愛と美雪2人のシーンでは、愛の目線が美雪の上にきていることがほとんどだった。たまに同じ目線はあっても、美雪の目線が愛の上にくることはない。
それは、愛が美雪のことを憎き恋敵と見なしていたことと、彼女がたとえの恋人であることが理解できずに、見下している部分が少なからずあったからではないかと思う。そして美雪にとっても愛は倒れている自分を助けて(初めて手を差し伸べて)"くれた"人で、初めて友達になって"くれた"人で.... 2人は対等な関係ではなかったからだと思われる。
それがラストシーンで初めて、愛が美雪を見上げるかたちになり、あの言葉が発せられる。
これは愛から美雪に対する一種の懺悔であり心をひらいた瞬間なのではないかと思った。
最初はたとえと美雪の関係を壊すためだけに美雪を抱いた愛。美雪に触れた手を執拗に洗っていたところを見ると、その行為、もしくはそこまでした自分に強い嫌悪感を抱いていたはず。
それなのに最後「また一緒に寝よう」と自ら誘いかけるような言葉を発したのは、自分に寄り添おうとし、「打算的だとしても心をひらいてくれてありがとう」と愛の全てを受け入れ心をひらいてくれた美雪に自分も心をひらいて歩み寄りたかったからではないだろうか。
もしくは美雪に対しても、愛情に近い感情を抱いたことを自覚したのかもしれない。
玻璃

玻璃