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偶然と想像のKHのレビュー・感想・評価

偶然と想像(2021年製作の映画)
4.5
キネマ旬報シアター(@千葉県柏市)

今作の会話劇はもはや文芸作品。
観客に感情を読み取らせる事を拒むような棒読みの演技も、会話が進むにつれてリアリティから抽象的になっていく展開も、明らかに他の映画とは違う世界観があって心地よかった。
短編3作品の一貫したテーマの1つは「偶然」。そもそも物語の性質として必然性(ある程度の因果)を持つことで成り立っていると思う。でも実際の現実の世界は、無数にある偶然性(不条理)の連続とその選択によって作られている。この映画はその間にいるような世界で、物語の顛末を左右するのは偶然性とそこから発生する会話によって世界が作られている。

特に好きなのは最後の話だった。
あるウイルスによりコンピュータが世界中で使えなくなってしまった設定。
コンピュータという記憶装置(クラウドにデータを保存できオンラインである限りいつでも取り出せる)が失われた世界。そもそも人間の脳みその記憶なんて、データみたいに客観性のあるものでもないし、現在の自分に照らし合わせその時その時に作り替えられている不安定な存在。
しかしその記憶こそが自己を決定づける個性であり、自己と他者を隔てる境界。
このコンピュータにない曖昧さによって物語が突き動かされる。

3作品に共通することはラストでカメラがデジタル的にズームになる。
この映画において観客だったはずの自分が、このズームによりカメラの介在を意識させられその場にいる当事者のような若干の気まずさを感じた。
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