hawelka1992

イントロダクションのhawelka1992のネタバレレビュー・内容・結末

イントロダクション(2020年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

Me too運動以後、第4波フェミ二ズム(学術的に正確な分類かはともかく)がSNSの隆盛と共に全世界的に拡がっている。その中でも韓国は、儒教文化に伴う家父長性、兵役といった部分で、女性の抑圧が強いこと、かつ西側世界の一国として経済的にも成長し、文化面でも西洋との混交が著明なためか、フェミニズムが反映されたカルチャーが多いように思える。

そして、女性の社会進出、地位の向上の当然の帰結として、男性性の問題が浮上してくる。インセルのような、立場を無くした男性の不満という問題もあるが、そのほかにも、男性性が求められたジェンダー感が現代社会にそぐわないことや、あるいはそこから溢れおちる男性にフォーカスを当てやすくなったことで顕になるものもあるだろう。

この作品は、何者にもなれない青年の、その無力さと青春をとらえている。青年とその恋人を巡る、3つの抱擁と物語により構成されるが、何の物語も、これから何かが始まることを予感させるにとどまり、タイトル通りその導入部分で終わっている。そして、時勢が進むにつれ、全てがうまくいかなかったことがわかる。

最初のシーンでは、彼と彼女は似たようなダウンジャケットを着て、同じように何物でもない若者である。しかし、彼女はチャレンジをして、時を経て挫折を味わい、洗練された姿で帰ってくる。一方の主人公は、いつまでも同じダウンジャケットを着て、空虚な悩みで何年経っても同じところにいる。俳優を志すも、人に言われたから目指すのみ、そして嘘の愛を演じれないという理由でその道を諦めようとし、人気俳優から叱られる。いつまで経っても子供であり、傷ついて帰ってきた彼女を抱きしめることもできない。

全てのキャラクターに共通し、執拗に映るタバコのシーンであるが、大人たちは窓際で物思いに耽りながら、悩みを抱えながら、吸っているが、主人公はイライラと時間もかけずに吸ってしまう。その若さとモラトリアムが爆発する、冬の海に入るシーンの、彼の笑顔は本当に切ない気持ちにさせられると同時に、その美しさに眼を奪われる。

ますます女性が活躍し、リアリティのある人生の荒波を生きる中、モラトリアムに守られていた男性が社会に晒された時、自分の物語を生きれるのか。すでに愛を注いでくれる人々の抱擁の美しさに気づきはじめている彼がこれから生きていくintroductionを観ているのだと思うと、勇気をもらえる。
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