かなり悪いオヤジ

アンラッキー・セックス またはイカれたポルノのかなり悪いオヤジのレビュー・感想・評価

3.3
夫とのSEX動画がネットに拡散してしまった女教師を通じて、過去そして現在のルーマニアに関わるありとあらゆる社会問題をパロりたおしたブラックコメディである。映画全体は、お騒がせユダヤ人サーシャ・バロン・コーエンをイメージさせるがあそこまでお下劣でもなく、どことなくインテリジェンスを感じさせる作風のため、私個人的にはいまいちのりきれなかった1本だ。

EU加盟により自由主義が導入されたルーマニアでは、政治を司るお役人たちが腐敗しきっている。ルーマニア人先輩映画監督クリスティアン・ムンジュウの作品などを見ていても、どうもその噂は本当らしい。しかし本作がターゲットにしているのは、その政治のみならず、歴史、宗教、教育、人種、ジェンダー....ありとあらゆるジャンルに股がっているため、薄味になった感は否めない。おそらく監督は、そういったもろもろの社会問題の原因を“道徳”や“倫理”に求めたのだろうが、(中立性に拘ったがために)いまいちうまく伝えきれていない気がするのだ。

自由主義導入以前のチャウシェスク独裁政権下では、(賛否はあるものの)家父長である男性優位の社会が形成され、それなりの“道徳”や“倫理”が保たれていたはずである。しかし、西側の自由思想がもたらされるやいなや、(戦後の日本のように)それまでのありとあらゆるアンシャン・レジームが破壊されてしまったのである、しかも急ピッチで。つまり何を拠り所に善悪を判断してよいのか、ルーマニア国民は分からなくなってしまったのではないだろうか。

件の女教師の辞任か慰留かを決める、まるで魔女狩りのような(#me-too逆)裁判シーンに、それがよく表れている気がするのである。辞任を求める方に回った者が、実は自由主義経済の恩恵を受けている職業の人達という点にも、我々は気がつかなければならない。子供の教育上よろしくない、という理由だけで一方的に女教師に辞任を求める強引なやり方は、どこぞの国のポリコレ主義者とまったく同じで、他国の倫理を無理やり押しつけているだけなのである。

グローバリズムがもたらしたものは経済の豊かさだけではなく、国民性の喪失てあり、長い時間をかけて醸成されてきたその国の道徳や倫理、そして文化をも一様に染め上げてしまう没個性なのである。その借り物の服を着ているているような心地悪さに気がついたのが、トランプを選んだアメリカであり、ブレグジットをはたしたイギリスであり、ウクライナに侵攻したプーチン、そして巨大ディルド片手に大暴れするなんちゃってフェミニスト=ワンダーウーマンだったわけである。

「どんな治療を施してもぴくりとも動かなかったドイツ人患者の右手だが、思いつきではなったある医者の言葉で見事に完治したという。“ハイル・ヒトラー!”」