つるみん

ボーはおそれているのつるみんのレビュー・感想・評価

ボーはおそれている(2023年製作の映画)
3.4
【Do you want the truth now?】

母を訪ねて三千里。

A24がアリ・アスターに自由に作らせた結果…。もはや世界中の誰も理解出来ないような作品を作る事を目標にしているのかもしれない。ストーリーのベースはあるが、描き方にプロットはなく、型にはまらない演出の数々は違和感の前に〝映画を観ている感覚〟すらも失くしてしまう。まるで悪夢、バッドトリップで身体が自由に動かないような気持ち悪さ。

この感覚はデヴィッド・リンチ監督作、例えば『イレイザーヘッド』や極度の不安から奇妙なものを見る点においてはデヴィッド・クローネンバーグの『裸のランチ』と酷似している。しかしその精神的病の明確な理由は言及されず、我々に委ねるシーンが多いのもアリ・アスターの性格の悪さが出ているというか…。


ここからは少々ネタバレ


主に大きな4つの物語(のような感覚)があり、それらは別々のバッドトリップを演出してくれるが、主人公のロードムービーという枠組みでは一貫している。これもある意味、ジェットコースタームービーなのかもしれないと思い始める。上流階級から下流までをそれぞれ描き、心を落ち着かせる間もなく、次のステージへ。

そして言及しなければいけないのがアリ・アスター作品には欠かせない特殊性的描写。序盤のカオスな街並みにはPussyの貼り紙が多数あったり生々しい落書きがされていたり、少年期には同年代の女の子と性行為を行ったら死ぬという陰謀論を信じ、母親は父親のことをこの世に存在しない男性器でできたモンスター等という言い回しをするし。とにかく性的トラウマを終始植え付けられる描写が多く、それは全て母親が原因であり、今もなお母親に(直接的に)苦しめられるという後半の衝撃シーンもあった。

またアリ・アスターの事なので〝映画的な救い〟は一切なく終わる。幼少期からオジさんになるまでの彼の不安や苦しみ、罪悪感。そして里帰りという名の自己発見の旅は、まるで何も意味をなさなかったかのように終わる。これを3時間見せられた観客にも勿論何も幸福な感情は生まれない。

3時間も何を見せられたんだ…っていうね。
つるみん

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