ベルベー

ボーはおそれているのベルベーのネタバレレビュー・内容・結末

ボーはおそれている(2023年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

「皆が不快になるように作ったんだ!」とか言われると実際不快になったとしても観に行ったこっちの自業自得になるやんけしかも単純につまらなくて不快になった場合もこの警告適用されるやんけアリ・アスターてめえと思いながら観たけど、言うほど不快じゃなかった。むしろわりと客観視している人の映画だよな。「頭がおかしい監督」を自演している人が作る映画。良くも悪くも。

ノイローゼを患った中年男性の思考回路を映像化したような作品で、恐らくアリ・アスター自身もノイローゼや鬱に近い状態になったことがあるor今も完治していないのだと思うが、一方でそんな自分の妄想が滑稽だと嘲笑う俯瞰の視点も持ち合わせているので、こうなっちゃったんだと思います。本当に頭のおかしい人が撮ったならガチガチのホラーにもなるだろうが、アリ・アスターは半笑いで撮っているのでコメディになる。そっちの方が怖い?そうかも。

前作「ミッドサマー」も同様の手順で作られた映画だと思うが、あちらは「ウィッカーマン」を堂々とパクry因習村ホラーという型にしっかりはめているためまだ分かりやすい。「ボーはおそれている」は型を半ば無視しているので、とっ散らかって見える。

しかし、カウンセリング受診の結果をわざとインモラルな方向に解釈してみせてホラー映画としてのインパクトを強めた「ミッドサマー」と比べると、「ボー」の方が真っ当にカウンセリングを受診している格好なので実はストレート。カウンセラーが信用できない、裏切っていたなんて、カウンセリング受診者の抱える不安としては順当だもんな。彼氏殺せばハッピーハッピー!の方がおかしい。普通に。

ただ、主人公の自意識の方にこそ問題があるという構図に忠実すぎた結果、ずっとクレイジーな映像が続くので逆に盛り上がらないという致命的な欠陥を抱えた作品でもある。お母さんが死ぬまでもなく様子がおかしすぎるもんなボーの周囲。母の死をきっかけに狂気が侵食しはじめ…ならまだしも。

通常、物語というのは話が進むにつれて主人公の意識が変容していくもので、「ヘレディタリー」も「ミッドサマー」もそうなっているのだが、「ボー」の場合、主人公は徹頭徹尾ノイローゼなので著しくメリハリに欠ける。物語を通して、ボーは何も変わらない。テーマとしては面白いけど物語としてはつまらないよな。

起承転結でカタルシスを出す工夫がもう少し為されていれば…しかし、今回アリ・アスターはスーパーペ◯スモンスターを出すぞー!とかそういう方向にばっかり工夫を凝らしている。何やってるんだお前。演劇のシーン長えよ。

と言いつつ、ノイローゼなイメージの羅列自体は面白かったんだけどね。ナチュラルに死体転がってるし全裸だし監視されてるし。アニメーションを交えて不穏な映像を作っているのも面白い。ホラーというフォーマットに忠実だった前二作では観られなかった冒険。殺人マシーンの帰還兵とスーパーペ◯スモンスターはやり過ぎだけど。

ホアキン・フェニックスは「ジョーカー」からこの方こんなんばっかだな。クセになってるだろ加虐されてみっともない悲鳴上げるの。他キャストだと、ネイサン・レインとスティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソンの笑顔がとても不気味で不快で良し。

大コケするのはそらそうだとしか言いようがないので…ヒットしてもコケてもウケても批判されてもアリ・アスターの勝ちみたいなのは虫が好かんので、A24はちゃんとアリ・アスターを叱った方が良いと思います!
ベルベー

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