イトウモ

ボーはおそれているのイトウモのレビュー・感想・評価

ボーはおそれている(2023年製作の映画)
3.8
『チェンソーマン』に似てると思ったのは、

・母と息子の支配の物語である
・一見残虐なホラー演出が過剰さのせいでギャグになっている
・世界が主人公に過干渉であるせいで世界観が崩壊している

点で、
特に三つ目。私と関係したりしなかったりする世界の中にぽつんとある人間ということが全然なくて、あらゆるものが私を好んでいるか、憎んでいるかで意味付けされていく「世界観のない」「『私』の映画」であること、というかそういうことが面白いと思っている感性がひとつ、アリ・アスターの映画だと思う。

尺の長さ、会話シーンのだるさ、エピソード同士の繋ぎのテンポの悪さにはいらいらするがギャグセンスが非常に高いことがわかってよかった。
裸の男が向かい合って走るシーンの切り返しや見切れ、交通事故のタイミング、全裸の瞬間停止、全部笑った。最後に出てくる化け物は『大日本人』を思い出した。往年の日本のコント番組に通じる破壊力を感じて、ここは大変好感を持った。

作劇としてはフェリーニの『サテリコン』とかブニュエルの『銀河』を思わせるオムニバス風のロードムービーで、いかにもそういうところから神様の話がすぽっと消えてしまうと「僕とママ」の話になってしまう。

あと、めちゃくちゃ『オオカミの家』が好きだというのが伝わってきて、とにかく家の内装がどれもめちゃくちゃ凝っており、支配と管理社会と、おそらく物語上はテーマとしては悪いものとして想定されているはずのものが、演出的には過剰な美点として登場する。