エドワード農村

彼女が好きなものはのエドワード農村のネタバレレビュー・内容・結末

彼女が好きなものは(2021年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

オンライン試写にて。

今作はただのBL腐女子のラブストーリーではない。むしろラブは遠い。
現在進行形の人間関係の在り方を思春期の年代が感じられるようにうまく落とし込んだ力作だと思う。

「好きなものをただ好き」ということによって、周りが困り果ててしまったり、気を遣わせてしまったり、不快な思いをさせてしまうということをテーマに描いた作品。主人公二人に共通なのは、パブリックな場面(学校・家庭)では周りに配慮し、またそれにより自分が傷つくことを恐れ、自分を押し殺して過ごしているという点で、だからこそ二人は繋がったのだと思う。

安藤くんにとっての「異性愛」と、三浦さんにとっての「BL」という想像上でガチガチ固めていたファンタジーの世界だったものが、リアルになった時、押し込めたイメージの枠を出て、個を見つめることへと二人はたどり着く。またその二人に誘発されて生徒達・家庭を持つものが、立ち止まり、自分の頭で考えようとする描写があるのが良い。周りの描き方に嘘のなさを彩った今井翼くんと前田旺志郎くんがまた素晴らしい。

最後の無人駅のシーンで
「私が好きなものは、BLであって安藤くん」
「僕が好きなものは、男であって三浦さん」
という誰よりも必要な認知を自分で強く認識し、互いにも獲得した二人の成長を青春と呼ばずしてなんと呼ぶだろう。これこそ個の時代であるし、逞しさと真の賢さだと思った。美しい。