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⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎のシネラーのレビュー・感想・評価

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎(2023年製作の映画)
4.5
製作発表から楽しみだった
『ゲゲゲの鬼太郎』の劇場最新作を鑑賞。
自分自身はTVアニメの5期と6期に
『墓場鬼太郎』をリアルタイムで視聴し、
それ以前の鬼太郎も劇場版や
一部TVエピソードは視聴している位に
シリーズが好きな身だが、
重たい上におどろおどろしく暗い
前日譚として素晴らしく、
水木しげる先生の生誕100周年記念作品
として申し分なかった。

物語は昭和31年、山奥にある哭倉村の
当主が亡くなった事で村を訪ねた
サラリーマンの水木が、
後に目玉親父となる鬼太郎の父と遭遇し、
資産家一族の奇っ怪な事件を目の当たり
にしていく内容となっており、
妖怪ホラーだけじゃないサスペンスに
醜さが突出した人間模様が良かった。
閉鎖的な村での犬神家の一族のような
争いが巻き起こり、
シリーズでも屈指のグロテスク描写で
物語と作風が合っていると思った。
目玉の親父が目玉となる前のゲゲ郎
として水木と行動を共にするが、
二人のバティものとしての
面白味があって良かった。
飄々としながらも妻を大事に想う
ゲゲ郎と戦争でのトラウマを抱える
水木の関係性が良く、
特に戦争での経験で感じられた
人間の醜さを水木が村で同様の醜さを
感じていくのが上手いと思った。
訪れた閉鎖的な村で人間の狂気を
目の当たりしながらも、
ゲゲ郎が息子の生きる未来の為に
決断していくのが印象深かった。
現代を舞台とした場面では
お馴染みの鬼太郎と猫娘が活躍するが、
村で起こった忌まわしき事件を
語り継ぐ事で人の意志も継いでいく
というメッセージ性が描かれており、
過去の忌まわしき出来事でも
語り継いでいく事で未来が作られていく
と思えた部分だった。
それでいて目玉親父が昔も今も
人間社会は変わりないと言っているのが、
言葉の重みを感じるところだった。
アクションらしい場面も印象的で、
特に中盤でのゲゲ郎の場面は
ジャンプのバトル漫画のような
激しさがあって格好良かった。
最終的に鬼太郎の誕生という
希望が紡がれて終わるのだが、
エンドロールでの映像まで原作愛が
感じられるのも好きな部分であり、
鑑賞していて水木との関係性に
鬼太郎の両親の容姿含めて
原作との繋がりが気になっていたが、
そこも見事に着地させているのも嬉しかった。

強いて気になる点を言えば、
細かな物の説明が省略されたり、
物語の重要な事がテンポ良く語られる為、
そこはじっくり描いても良いと思った。
又、Jホラー的な怖さというよりは
グロテスクな怖さに特出している為、
そこは前者のホラー味も欲しく感じられた。

TVアニメ6期が大好きで
待ち焦がれていた劇場版だったが、
鬼太郎と妖怪の戦いを主に描くのでなく、
敢えて鬼太郎の誕生に至るまでの
前日譚となっているのに好感が持て、
戦争という水木しげる先生と
切り離せない内容となっているのも
生誕作品として相応しいと思った。
鑑賞後にはTVアニメ6期や
『墓場鬼太郎』を改めて観たくなり、
エンディングで目が潤っていたのが
入場特典のイラストカードでまた
潤ってしまった。
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