かなり悪いオヤジ

ライダーズ・オブ・ジャスティスのかなり悪いオヤジのレビュー・感想・評価

3.6
この映画の中で最も心を病んでいたのはいったい誰なのでしょうか?電車事故で母親を喪った太めの金髪娘?電車の中でその母親に席を譲った片腕が不自由な統計学講師?その共同研究者でブライアン・メイ似のセラピー回数自慢男?さらにその友だちでアスペルガー系デブチンハッカー?それとも途中から仲間に合流したもーほーウクライナ人?

いえいえそうではないでしょう。アフガニスタンに傭兵として派遣されていたマッツ・ミケルセン演じるマーカスこそ、長年戦場で敵を殺し続けていたがために愛する妻が亡くなったと聞いても、涙一つ流せないほどに心が凍りついていたのではないでしょうか?3ヵ月の駐留延長を落胆気味に妻に報告したあたりから、マーカスの心はすでにどこかおかしかったのです。

片腕の統計学者がマーカスに向かってこういいます。「心を病んでいる人の周りには同じような人が集まってくる。太っている人間がデブの中に混ざりたがるのとおんなじさ。目立たなくなるからね」この映画の舞台になっているデンマークも日本同様うつ病患者がやたらと多いらしいのです。病みきった映画を撮ることで有名なラース・フォン・トリアーも、重度のうつを患っているデンマーク人映画監督です。

娘の帰宅時刻がちょっと遅くなっただけでそのボーイフレンドをごっつい手の平でしばきたおしてしまうマーカス。なかなかショックから立ち直れない娘がセラピーを受けたいと言っても、マーカスは「ダメだ」の一言でかたずけてしまうのです。「おかしいのは、パパのほうよ」ショックから立ち直れない娘の気持ちになかなか向き合えないマーカスの前に、やはり同じような病気を抱えた理数系オヤジどもが現れてマーカスを妻の復讐へと駆り立てるのです。

マッツのようにごっつい体格だととかく冷静沈着なソルジャーのように見えてしまいがちですが、無実の?ギャング一味を血祭にあげながら、このマーカスは復讐という名の認知行動療法をしっかり行っていたのでないでしょうか。そして、ギャングどもが事件と全く無関係だと(うつの原因が)わかった時、今まで自分が手を染めてきた殺人の罪深さを思い知ったのではないでしょうか。精神崩壊し片腕男の腕に抱かれながら泣き崩れるマッツの演技にぜひとも注目したい1本なのです。

マッツに殴られて片目は腫れあがるは、指は3本折られるは、機関銃の標的になるはでとんだとばっちりを受けまくった、“緑色の髪の青年”こと料理男子シリウスの精神状態がとっても気になります。