MasaichiYaguchi

うみべの女の子のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

うみべの女の子(2021年製作の映画)
3.7
浅野いにおさんの同名漫画を石川瑠華さんと青木柚さんのW主演でウエダアツシ監督が実写映画化した本作は原作の世界観を壊すことなく、大人と呼ぶには非力だけど、子供というほど幼くもない中学時代を、ハードな性愛表現と繊細な心情描写で悩みもがく少女少年のリアルな姿を浮き彫りにする。
自分の中学時代を振り返っても、くだらないことで笑ったり悩んだり、自分ではどうしようもない壁にぶち当たったりして傷付いたりするけど、そこから立ち直る強さを持っている。
考えてみると中学生は不思議な年代で、本作を観ても登場人物たちの感受性の豊かさが伝わり、この年代でしか描けない不思議な魅力を持っているような気がする。
海辺の小さな街で暮らす中学生の小梅は、憧れの三崎先輩から振られたことから、その埋め合わせのように嘗て自分に告白した内向的な同級生・磯辺と関係してしまう。
その後も恋愛対象として見ていない磯辺をいいように振り回す小梅だったが、その2人の関係性が逢瀬を重ねていくに連れて変わっていく。
この小梅を石川瑠華さんが「猿楽町で会いましょう」に引き続きエキセントリックなヒロインを体当たりで演じている。
そして「アイスと雨音」の青木柚さんが複雑な家族事情があり、小梅に振り回される磯辺をエモーショナルに演じている。
磯辺が持つ〝家族の闇〟を象徴するものが何度も登場し、それが作品に何とも言えない陰影を付けていく。
好きという感情も、愛するという意味をよく分からず、肉体関係を重ねても満たされない心、相手を理解し繋がれないもどかしさ。
10代のどうしようもなく本能的で衝動的な行動は、相手を傷付けるだけでなく自分も傷付く。
そんな嵐のような季節を本作は、ヒリヒリするような渇きと共にノスタルジックに蘇らせます。