ももいろりんご

テーラー 人生の仕立て屋のももいろりんごのレビュー・感想・評価

テーラー 人生の仕立て屋(2020年製作の映画)
3.2
足踏みミシンの音がカタカタと耳に残る。特に序盤、まったくセリフがなくて、説明もなかった。だからスクリーンに集中した。
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=STORY=
アテネの街で、厳格な父のもと、紳士服の仕立て屋を手伝ってきたニコスは50歳。昔ながらのオーダーメイドで、高級な生地、一流の腕…しかし、客が来なければ、借金は返せず、とうとう店は銀行に差し押さえられることに。そのショックか父が倒れ入院…ニコスは一人、崖っぷちにいた。
そんな中、思いついたのが移動式の屋台!廃材を組み立て、手作りの販売車を作ると、ミシンに、スーツのサンプル、生地をもってニコスは外に出る。だが、高価で採寸から完成まで時間も手間もかかるスーツは全く売れない。そんな時「ウェディングドレスは作れる?」思いがけない問いに、女性ものなど作ったことがないのに「やります!」と答えてしまう。
隣家の親子、オルガと元気な娘のヴィクトリアの助けで、女性服の仕立てを学び始めるニコス。女性ものの服を並べ、青空の下、ドレスの試着をする女たち。ニコスの移動販売車に人が集まり始める…。
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整頓された店にカチリとスーツを着こなすニコス。ゆったりとした物腰。とっても素敵なのに、どこか落ち着かない。ファザコン?そんな言葉が頭を掠める。お店の名前も「(忘れたけどお父さんの名前)…&その息子」だったし。ずっと父のいいなりだったのだろうか。お父様もダンディーで素敵だったけど、その古き良きものを守るばかりでは時代に飲み込まれてしまうよ。
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そんなニコスが店を守ろうと、1人で奮闘!
移動式販売車を手作りしたのも驚いたし、ドレスの注文を聞きに遠出することになって、スズキのバイクに販売車を引かせて登場した時は、おぉ!となった。生き方は不器用だけど、手先は器用でなんでも作っちゃうし、行動力もある。彼の行動が人との出会いを引き寄せたいくのです。
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アテネやその近郊の街並み、青い空、その下で笑うウエディングドレスの女たち、その幸せを願う友人、家族。
市場の場面や価格交渉のシーンはニヤニヤしますね。人もニコスもたくましく生きる姿(笑)。
当初の期待ほど、笑いやスカッと感はなく、終盤も好みの終わり方ではなかったのだけど、それがあって、今更だけど50のおじさんはやっと”独り立ち”したのかもしれない。
彼が作るドレスが新たな出会いと幸せを繋いでいく。人生再生と、いくつになっても人は変われる、大人の成長の物語。