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猟銃のakrutmのレビュー・感想・評価

猟銃(1961年製作の映画)
3.9
歳の離れた夫と妻、そして妻の従姉にあたる女性との三角関係を中心に三人の行く末を描いた、五所平之助監督の恋愛ドラマ映画。原作は、井上靖の同名短編小説。小説では語り手の「私」がある猟師から送られてきた3通の手紙を読むという形でストーリーが展開していくが、映画ではその中身をそのまま映像化している。この原作は、本映画の他にも、2度のTVドラマ化、舞台化やオペラ化がされている人気小説である。

三杉穣介・みどり夫婦は、結婚してから間もないにも関わらず、すでに関係が冷え切っている。ある日、みどりの従姉である彩子が話題に上り、譲介は彼女に興味を持つ。一方、彩子は若き医師と結婚して芦屋で何の不自由もない生活を送っているが、ある日、小さな少女を連れた見知らぬ女性の訪問を受ける。その女性と彩子の夫は以前に関係があり、その少女は二人の子供であると言って子供を残して去っていく。彩子は夫と離婚をした上で、その少女を自分の手で育てることを決意する。そんな彩子と譲介はお互いに惹かれ合うようになり、密会を重ねるようになる。

ストーリーはこのようにメロドラマ風であるが、三人を演じた優たちの演技と映像がなかなか印象的。三杉譲介を演じる佐分利信は、こういう役をやらせたらピカ一という存在感を見せる。妻のみどりを演じる岡田茉莉子もさすがの一言。最初のほうの、譲介に軽んじされながら健気に仕える妻というキャラは彼女に似合わないと思って見ていたが、途中からなぜ彼女がこの役を演じたのかが納得できるような女性になっていく。そして、彩子を演じる山本富士子が見せる孤独な女性の寄る辺なさも良い。ただし、最後に彩子が取った行動については、彼女の心の内を暗示するような描写が不十分な(と個人的には思う)だけあって、ちょっと納得いかなかった。彩子の元夫を演じた佐田啓二の、本作での存在感が薄かったという点もその一因であろう。

映画のほとんどを占める室内シーンの演出も特徴的。譲介とみどりが暮らす部屋の、現代的で無機質な感じは二人の関係を象徴しているし、趣味である狩猟に使う銃の手入れをする譲介とみどりのやり取りが印象的である。一方で、彩子の自宅や譲介との密会場所は落ち着いた和室であり、二人でいるときの精神的な穏やかさ(だからこそ孤独なのであるが)を暗示している。
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