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コーダ あいのうたのsatchanのネタバレレビュー・内容・結末

コーダ あいのうた(2021年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

実際に耳の聞こえない方を起用して撮影したと話題になっていたので、どんな映画になっているのだろう?と注目していた作品です。4人家族の中でただ一人、娘さんだけ耳が聞こえ、父母兄は耳が聞こえないって、一体どのようにして生活しているんだろう?と純粋に分からないまま、見始めました。タイトルのCODAは、Children of Deaf Adult/sの略で、耳が聞こえない・聞こえにくい親を持つ聞こえる子の意味だそうです。この映画では、娘さんルビーのことですね。

漁業を営む家庭で育ったルビーは、午前3時には目覚ましとともに起きて、家族で漁に出かけた後、学校へ通う高校生。漁では、家族全員が黙々と網から引き上げた魚を仕分け、ルビーは一人大声で歌っている様子が描かれています。収穫した魚を売り捌くのもルビーの役目。家族が損をしないように、大人と取引をして、両親やお兄さんの通訳をします。朝からこんだけ働いているのですから、学校で授業中に居眠りをしてしまうのも、無理はありません。

この映画の良いところは、この家族が底なしに明るくて、率直で面白いところ。暗く落ち込んだ家庭ではないのです。耳が聞こえないということが、どういうことなのかを伝えているシーンがいくつもありました。音楽を大音量で鳴らしながら学校へのお迎えに来るシーン、お母さんがお皿をガチャガチャいわせて食事の支度をするシーンや、ルビーの憧れの彼が来ているのに両親がエッチを始めてしまうシーンなど。ルビーの友人や、近隣の人たちには奇異に映る行動に何の疑問も抱いていなくて、堂々と生きてるところが素敵な家族でした。ただルビーにとっては、時に恥ずかったり、嫌がらせを受けたり、問題続きです。なのに、この子、たくましく生きてるんですよね。

ルビーは歌うのが好きということと、憧れのマイルズと同じクラブということで、合唱クラブに入部します。ここで、歌の才能を買われ、顧問のベルナルド先生に見出されます。ここからが歌の特訓です。ルビーとマイルズが戸惑いながら、デュエットし、歌の練習をして行く様子が美しく描かれています。喧嘩したり、仲直りしたり。ちょっと、『ハイスクール・ミュージカル』のトロイとガブリエラを思い出す感じ。アメリカの映画って、こんな風に若者を育て上げていく人が現れるのが良いですよね!『しあわせの隠れ場所』の血のつながりのない親と家庭教師や、『ドリームプラン』のお父さんとスポンサーみたいな、こういう熱い人たちが素敵で大好きです。

お母さんは、娘ルビーが生まれた時、耳が聞こえる赤ちゃんと聞いて困った、育てあげられない、分かり合えないと思ったという話には、正直言って驚きました。耳が聞こえると聞いて喜ぶのが当然だと思ったからです。でも、聞こえないことが当たり前だったら、考え方も逆になるのかもしれませんね。自分が浅はかだったと思いました。お母さん役のマーリー・マトリンさんは『愛は静けさの中に』という映画で主演女優賞を受賞しているから、面白いし、感動させるし、それでいて美しい。

なんと言っても、味の出た、アクの強いお父さんがすごい。お父さん役のトロイ・コッツァーさんは、この作品で助演男優賞受賞してます。手先だけではなくて、体全身を使った手話が見どころですね。分からないのに、分かった気になってしまいます。発言は破廉恥だったりして、でも、率直実直で、共感できるんですよね。

ルビー役のエミリア・ジョーンズさんの手話は、映画のために学んだ筈ですが凄いことです。ラストの試験で歌いながら手話を始めるところ、涙が溢れて仕方なかったです。学校のステージでも手話をつけて欲しかった。ルビーにとっては、手話を付けることで初めて、気持ちを伝えることができるのではないでしょうか。ベルナルド先生とのレッスン中にも、気持ちを聞かれると、うまく答えることができずに、手話で表現してしまうところがありましたよね。彼氏のマイルズが試験に合格できず残念ですが、きっと2人が結ばれていることを願って!また見ようっと!
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