ジャクト

コーダ あいのうたのジャクトのレビュー・感想・評価

コーダ あいのうた(2021年製作の映画)
4.6
両親と兄が聾唖者である家族のなかで唯一の聴者である高校生のルビーは、幼い頃から周囲と家族の橋渡し役をこなしていた。午前3時に起きて家業である漁業を手伝い、魚の売却などの交渉の際には手話にて通訳を行い、学生として勉学にも励む。

そのような忙しい生活のなかで、ふとした機会から合唱サークルに入ったルビーは、顧問の音楽教師から歌の才能を認められる。そうして音大への進学を勧められるが……といったストーリー。いわゆる、ヤングケアラーを題材とした物語である。

題材としては重さを感じるも、作品の雰囲気としては比較的明るめで、クスッとくるような場面も多い。ルビーの両親は障害はありながらも快活でユニーク、特に父親は際どいネタも身振り手振りで表現する愉快な人物である。そうしたある種の前向きさが、この映画を重苦しさから解き放っているような感じがした。また性的な表現、シーンが多いことも、障害者に対して抱きがちな幻想を良い意味で破壊しているように思えた。

ルビーには音大に進学するという夢があり、その夢は、家族のサポートに専念していては叶えられないものである。しかし同時に、ルビーを必要としている家族の気持ちや家族内におけるルビーの役割の大切さも見ていて伝わり、その描き方のバランスが非常に巧みだった。

どちらが正義でも悪でもない、一方だけが正しいわけでも、間違っているわけでもない。いわゆる現実社会の介護者に生じているであろう葛藤や問題を適切に表現している映画で、それでいて希望や家族愛を存分に感じさせるストーリーは素晴らしかったと思う。心に残る作品だった。
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